おすすめミステリー小説100選【国内編】

書籍

子供のころからミステリー小説が好きで、時間があると読んでいました。ミステリー小説は出版物の数がとても多く、全てを読むことは出来ていませんが、人から進められたり、雑誌のランキングを見たりして、面白そうなものを読んできました。とても面白く夢中で読んたものから、自分にとってはあまり面白くなく、途中でやめたものもありました。

インターネットが普及し、スマホやタブレットなどで、様々なコンテンツを楽しむことが出来るのが今の世の中です。youtube、netflixなどの動画配信、ゲームも一人でプレイするものから、ネット対戦、協力プレイなど、遊び方は人それぞれ。しかも昔に比べとても手軽に楽しむことが出来る世になりました。その中であえて文字を読んでいく小説が選択肢の中の上位に来ることはあまりないのかもしれません。

しかし、あえて言いたい。

良く練られた小説は本当に面白い‼

魅力的なキャラクター、謎に満ちたストーリー、緻密に構成された上で起こる最後のどんでん返し、などなど、小説ならではの面白さは、一度ハマるとやめられなくなります。そして、それは味わってみなければわかりません。

ぜひとも、そんな小説の面白さを体験していただきたく、僭越ではございますが、おすすめの作品をご紹介させていただきます。(2021年出版の作品は『最近の作品』として、2020年以前の出版作品を『おすすめランキング』としてランキング形式でご紹介します。)

 

最近の作品

(2024年~2021年出版:おすすめランキングには入っていません。)

密室法典 五十嵐律人 KADOKAWA

★リーガル、短編連作

前作『六法推理』の続編。前回よりもライトな内容だが、引き続き青春リーガルミステリーは踏襲されている。法律要素とミステリー要素を上手に掛け合わせているのは相変わらずお見事でした。

エピローグから続編が想定できるので、楽しみです。

<あらすじ>
霞山大学の法学部から、同大学のロースクールへと無事に進学した古城行成。古城が運営する「無料法律相談所」(通称「無法律」)は、自称助手の経済学部四年、戸賀夏倫と、法学部四年、矢野綾芽を交わえ、持ち込まれた法律が関わる事件を解決する自主ゼミである。
密室状況にある模擬法廷の証言台の前で、恐竜の着ぐるみが倒れていた監禁事件、2通の遺言書を作成した医者の不審死とダイイングメッセージの謎、官庁訪問の会場で相談された雪山での相談事件などの経験を通じて、古城たちは少しずつ、法の真理と人間への洞察を深めていく…。

それは令和のことでした、 歌野晶午 祥伝社

★短編集

7つの物語で構成された短編集。正直ミステリーとしては期待したほどではなかった。作家として『葉桜の季節に君を想うということ』が非常に強く印象に残ってしまったための私的な感想ではありますが…

ただし、お話としてはどれも面白く、特に『君は認知障害で』はミステリーとしても面白かったと思います。またキャラクターが良かったので、この設定とキャラクターで長編を書いてほしいと思ったほどです。

歌野先生ぜひご検討ください(笑)

<各タイトル>
彼の名は/有情無情/わたしが告発する!/君は認知障害で/死にゆく母にできること/無実が二人を分かつまで/彼女の煙が晴れるとき/花火大会(ボーナストラック)

博士はオカルトを信じない 東川篤哉 ポプラ社

★連作短編集、ユーモアミステリー

『謎解きはディナーのあとで』の著者である東川篤哉が描く、短編連作痛快ユーモアミステリー。

40代以上がクスっと笑えるネタが満載。さすがユーモアミステリーの名手って感じです。『探偵夫婦の息子でオカルト好きの中学2年生(主人公)』×『自称・天才発明家のアラサー博士(探偵役)』のコンビがいい感じの掛け合いをしてくれます。もちろんミステリーとしても程よく完成されていて面白い。主人公と博士のキャラクターがとっても良く、また二人の掛け合いや、ボケとツッコミなどノリがいいので、ぜひ映像化してほしい作品です。

<あらすじ>
私立探偵の両親を持つ中学2年生の丘晴人(おかはると)。両親を手伝う中で遭遇したオカルト事件を解決するために、謎の発明に日夜没頭する女博士の元を訪ねるのだが…。全5編。

刑事王子 似鳥鶏 実業之日本社

★連作短編集、アクション

漫画的というかアニメ的なキャラクター設定が面白い!映像化したら面白そうな作品でした。

<あらすじ>
都内で起きた密室殺人。北欧のプリンスがなぜか事件現場に現れた。
協力を命じられたベテラン刑事・本郷馨は、北欧の小国・メリニア王国のミカ第三王子と共に捜査に乗り出すが…。
連続する不可解な事件の裏には予想外の黒幕が!?

サロメの断頭台 夕木春央 講談社

★本格

『方舟』『十戒』で話題の夕木春央、最新作!

作品としては『絞首商会』『サーカスから来た執達吏』『時計泥棒と悪人たち』に連なる作品。
比較的、淡々と物語が進んでいく印象でそこまで大きなアクションがあるわけではない。しかし、困内描写と人物関係、次々巻き起こる謎、見立て殺人など内容は盛りだくさん。終盤の論理的謎解きもミステリーとして申し分ない。500ページを超えるのでボリュームも満点。

<あらすじ>
油絵画家の井口は、泥棒に転職した蓮野を連れて、数十年前に置時計を譲ってもらった、ロデウィック氏という発明家の富豪の元へ訪れる。
芸術に造詣の深いロデウィック氏は後日、井口の絵を見るために彼のアトリエに訪れるが、立てかけてあった絵を見て、「この絵とそっくりな作品を見た憶えがある」と気が付いてーー?
未発表の絵の謎を追って、井口と蓮野が大正時代を駆け回る!

ジェンダー・クライム 天童荒太 文藝春秋

★クライムサスペンス、社会派

性被害をテーマにした社会派クライムサスペンス。

結末が大きく予想を上回るというわけではなかったが、重たいテーマをエンタメのクライムサスペンスに落とし込んだ作品。

家族解散まで千キロメートル 浅倉秋成 角川書店

★ロードムービー、家族、社会派

印象としては『こんな家族観もあるよね⁉っていう話』です。

過去作の『六人の嘘つきな大学生』や『俺ではない炎上』のような、伏線回収型ミステリーを期待していると、肩透かしを食らうかも⁉です。

つまり、そこまでミステリー色は強くないです。家族の在り方に一石を投じるような著者の主張があり、家族について考えながら話を読み進めるような体験でした。「悪くはないが期待していたのとは違った」といった印象です。

<あらすじ>
実家に暮らす29歳の喜佐周(きさ・めぐる)。古びた実家を取り壊して、両親は住みやすいマンションへ転居、姉は結婚し、周は独立することに。引っ越し3日前、いつも通りいない父を除いた家族全員で片づけをしていたところ、不審な箱が見つかる。中にはニュースで流れた【青森の神社から盗まれたご神体】にそっくりのものが。「いっつも親父のせいでこういう馬鹿なことが起こるんだ!」理由は不明だが、父が神社から持ってきてしまったらしい。返却して許しを請うため、ご神体を車に乗せて青森へ出発する一同。しかし道中、周はいくつかの違和感に気づく。なぜ父はご神体など持ち帰ったのか。そもそも父は本当に犯人なのか――?

有罪、とAIは告げた 中山七里 小学館

★SF、リーガル

一言で言えば『もし裁判官がAIだったら』という話。

考えてみれば『AIに過去の事件と判例を読み込ませて判決をさせる』という事は、非常にありえるのではないか?と思いましたね~。

龍の墓 貫井徳郎 双葉社

★SF、本格

VR世界が一般的となった近未来。スマホはもはや時代遅れでVRゴーグルが主流となっているという設定。もちろんゲームもVRが主流となっていた。

とある人気ゲームの1つのエピソード(クエスト)の中に名探偵となって事件解決をするというのがあった。そしてそれと酷似した殺人事件が現実の世界でもおきたのであった…。といったあらすじでした。

VRゴーグル&VRゲームといった部分はソードアートオンラインとかもそうですが、そのうち一般的になっていくのかな~、という気がしますよね。

ミステリー的な部分も面白かったですが、SF的な部分もそのうちありそうな感(リアリティとまではいかないが)があったので楽しく読めましたね~!

推理の時間です 講談社 法月綸太郎、方丈貴恵、我孫子武丸、田中啓文、北山猛邦、伊吹亜門

★本格、短編(6編)、アンソロジー

短編6編からなる短編集。連作ではなく6人の作家が1作ずつ執筆した短編集。大きく分けてフーダニット、ホワイダニット、ハウダニットの3種類が2作品ずつ。

いや~どれも完成度が高くて、面白い。また解答編が袋とじになっていて、挑戦ページと解答ページが分かれているのも良かった。自力で考えようっていう気になります。分かりませんでしたけど(笑)。

帝国妖人伝 伊吹亜門 小学館

★短編連作集、時代物(明治)、本格

コンパクトにまとまった完成度の高い短編の連作集。5編の短編から構成されており、語り部は那珂川二坊という文学青年(編によって時代が移り変わるので年齢も上がっていくので青年でないときもある)

各編とも時代も場所も登場人物も違うが、そこで起こった謎を颯爽と解き明かす探偵が現れる。まさに『妖人』が如く。と言っても、妖怪とかオカルトとかではなく、あくまでも人並み以上という意味で使われている。(タイトルがオカルト作品っぽく感じるのが若干残念に感じるのだが…)

中身はガッツリ本格ミステリなので、ミステリ好きにおすすめの作品です。

5つの事件と5つの妖人が織りなす、“歴史・時代ミステリの星”伊吹亜門が放つ全5話の連作短編集をお楽しみあれ!

 

変な家2 ~11の間取り図~  雨穴 飛鳥新社

★短編連作風、ホラーテイスト

前作に続いて、家の間取りをテーマにしたミステリー小説第2弾。
今回は一見すると異なる話だったのが、複雑に絡み合って大きな話になるといった構成。
相変わらず物語への引き込みが異常に面白く、ついつい先が気になって読み進めてしまいました。
特別大きな大どんでん返しがあるわけではありませんが、「なるほど、そういうことか~」と思うところはあるので愉しむことが出来ると思います。

 

ブラック・ショーマンと覚醒する女たち 東野圭吾 光文社

★短編、続編

バーを営む元マジシャンの神尾武史。彼のバーに訪れた女性たちの物語。

本書を一言で表すならばそういう事になるのだが、主となる登場人物はもちろん、バーのマスターの武史。彼のキャラクターや行動、言動が本書の面白さのキモであろう。決して善人ではないが、極悪人という訳でもない。元マジシャンのスキルが存分に発揮されているのも、見どころとして面白い。

東野作品の新たなるシリーズとして、十分なポテンシャルを秘めたキャラクターなのではないだろうか⁉

ちなみに、本書は前作を読んでおいた方がより面白い、というか前作を読んでいないと面白さは半減。なぜかというと、登場人物のキャラクターが分かっていた方が断然面白いから。なので、可能であれば前作(1作目)もぜひ!

世界でいちばん透きとおった物語 杉井光 新潮文庫

★衝撃の読書体験

「とにかく読んで!」

正直この一言に尽きます。あとはネタバレしたくないので言いません(笑)

地雷グリコ 青崎有吾 角川書店

★短編連作集、頭脳戦、心理戦

いや~、面白かった。

人が死ぬようなミステリではないが、頭脳戦、心理戦という点では、その面白さはピカイチでした。今年読んだ本の中でも群を抜いて面白かった。ストーリー良し、キャラクター良し、エンタメ要素満載で一気読み必至‼

続編を切望です。あと映像化やアニメ化、コミック化などメディア展開もしてほしい作品です。

アマゾンレビューだと嘘食いに似ているという意見が見られましたね。確かにそんな感じでした。他にはライアーゲームとかにも似ていますかね。要は『欲しい物をかけて特殊なゲームをする』という展開のやつです。

「よくこんなゲーム考えつくよな~」とういうのが最初に感じた印象です。あとキャラクターもいいんですよね。それぞれキャラが立っているというか、それぞれに魅力が感じられるんです。

重厚な物語ではないので、じっくりミステリを求めている方には向いていないかもしれませんが、頭脳戦、心理戦、そしてとびきりのエンタメをお探しに方にはぜひ‼

それにしても面白かったな~

<あらすじ>
射守矢真兎(いもりや・まと)。女子高生。勝負事に、やたらと強い。
平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは…

その謎を解いてはいけない 大滝 瓶太 実業之日本社

★ギャグミステリ、中二病

中二病の探偵とオッドアイの女子高生。ライトノベル的設定とそこで繰り広げられる掛け合いは、ユーモアミステリを超えてもはやギャグミステリでは?と思えてしまう内容(いい意味で!)

ボリュームは多いけど、ライトノベル好きはハマると思います。(西尾維新作品、清涼院流水作品が好きな人には響きそうな印象です)

表紙が真面目でホラー要素強めな本格ミステリ風ですが、そんなことはないのでご注意を!

 

むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。 青柳 碧人 双葉社

★昔話、本格、むかし話×ミステリーのシリーズ第3弾、短編集

むかし話をモチーフにしたミステリーの第3弾で全5編収録されている。

相変わらずどの話もよくできており、それぞれに工夫が施されている。大きな衝撃を受けるような大作ではないが、良質な短編が好きな方にはおすすめできる一冊。

をんごく 北沢 陶  角川書店

★ホラー

第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞 史上初の三冠受賞作!

ミステリーベースのホラー小説。死んだ妻の思いは未練なのか呪いなのか?といった感じで、漫画の呪術廻戦が好きな人には刺さるので?といった印象。ページ数が200ページ少しとボリュームは少な目だが、上手くまとまっているのでイッキに読めるのが◎。

思ったよりアクション性もあり、人情、アクション、ホラー、ミステリーがうまく融合している。

<あらすじ>
大正時代末期、大阪船場。画家の壮一郎は、妻・倭子の死を受け入れられずにいた。
未練から巫女に降霊を頼んだがうまくいかず、「奥さんは普通の霊とは違う」と警告を受ける。
巫女の懸念は現実となり、壮一郎のもとに倭子が現われるが、その声や気配は歪なものであった。
倭子の霊について探る壮一郎は、顔のない存在「エリマキ」と出会う。
エリマキは死を自覚していない霊を喰って生きていると言い、
倭子の霊を狙うが、大勢の“何か”に阻まれてしまう。
壮一郎とエリマキは怪現象の謎を追ううち、忌まわしい事実に直面する――。

幽玄F 佐藤究 河出書房新社

★航空アクション、宗教、哲学

ミステリーではないのですが、面白かったのでおすすめしたい一冊です。

佐藤究の直木賞受賞後第一作。航空宇宙自衛隊員『易永透』の生き様を描いた、日本・タイ・バングラデシュを舞台に「護国」を問う、圧巻の一作。

トップガンのようなスカイアクションもありながらも、北野武映画を思わせる滅びの美学もある。エンターテインメント性がありつつも文学性もある。一言では表現しきれない深さと広さは衝撃です。

歌われなかった海賊へ 逢坂冬馬 早川書房

★冒険、第二次世界大戦、ナチス、ドイツ

こちらもミステリーではないのですが、面白かったのでおすすめしたい一冊です。
本屋大賞受賞後第一作。

第二次世界大戦中、ナチス政権下のドイツが舞台にした、少年少女の冒険譚。友情あり、愛情あり、冒険あり、成長あり、と冒険小説の要素を盛り込んだ一冊。

決して話が短いわけでは無いのにイッキ読みでしてしまいました!

<あらすじ>
1944年、ナチス体制下のドイツ。父を処刑されて居場所をなくした少年ヴェルナーは、体制に抵抗しヒトラー・ユーゲントに戦いを挑むエーデルヴァイス海賊団の少年少女に出会う。やがて市内に建設された線路の先に強制収容所を目撃した、彼らのとった行動とは?

二律背反 本城雅人 祥伝社

★スポーツ(野球)、ミステリ

ミステリーにはなっているが、話の中心はプロ野球のペナントレース終盤戦。主人公の二見はプロ野球の投手コーチであり、主に投手目線で野球が語られるシーンが多く登場する。なので、野球好きの人には刺さる話となっている。

ミステリーとしても、緊張感のある展開や、序盤で張られた伏線がきれいに回収される終盤など読み応えたっぷりでとても面白かった。

また話の中心はスポーツとなるため、ヒューマンドラマとしての読み応えもあり、読み終わった後の満足度がとても高い作品だと言える。

<あらすじ>
20年ぶりのリーグ優勝を目前にするプロ野球・横濱セイバーズ。その快進撃の立役者である投手コーチ二見里志は、抑えの新田隆之介らの疲労管理に頭を悩ませ、リリーフ陣を酷使したがる辻原監督と衝突が絶えない。そんな里志のもとに、突然の訃報が届く。里志の現役時代の恩人であり、ある〝罪〟の発覚以来、球界を追放されていた盟友・檀野晋が亡くなったという。当初、自殺と思われていた事件は殺人と発表され……。

エレファントヘッド 白井智之 KADOKAWA

★本格、多重解決、SF

なかなかどうして、かな~り『クセ』のある作品。ミステリとしての完成度は非常に高いし、予想できない展開に「どうなってる?」となるわけですが…。事件がおこって探偵がいて犯人がいてトリックがあって…なんて王道は全くなく、白井ワールド全開といった感じの作品です。

<あらすじ>
精神科医の象山は家族を愛している。だが彼は知っていた。どんなに幸せな家族も、たった一つの小さな亀裂から崩壊してしまうことを――。やがて謎の薬を手に入れたことで、彼は人知を超えた殺人事件に巻き込まれていく。

 

十戒 夕木春央 講談社

★本格、クローズドサークル

昨年の『方舟』が数々のミステリランキングにランクインした著者の最新作

※以下は『方舟』のランキング結果
「週刊文春ミステリーベスト10」&「MRC大賞2022」堂々ダブル受賞!
本格ミステリ・ベスト10 2023 国内ランキング(原書房) 第2位
このミステリーがすごい! 2023年版 国内編(宝島社) 第4位
ミステリが読みたい! 2023年版 国内篇(早川書房) 第6位
ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2022 小説部門(KADOKAWA) 第7位

そんな著者の最新作がおもしろくないわけがない。閉ざされた空間、特殊で緻密な設定、論理的な展開などなど。そして衝撃のラストが…!

辛口評価をすると登場人物があまり面白くないのと、かなり淡々と進んでいくので、とにかく最後まで読んでください!と念を押したい。

<あらすじ>
浪人中の里英は、父と共に、叔父が所有していた枝内島を訪れた。
島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。
島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。
“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。
犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まったーー。

あなたが誰かを殺した 東野圭吾 講談社

★本格

加賀恭一郎シリーズ最新作。

安定の面白さと最後の最後まで目が離せない展開は圧巻。事件の謎もさることながら、次第に明かされる登場人物たちの過去と嘘、そして本性。それを的確に暴いていく加賀恭一郎。気づいたら読み終わっていたってくらい、どんどん読み進めてしまう面白さがありました。

<あらすじ>
閑静な別荘地で起きた連続殺人事件。残された人々は真相を知るため「検証会」に集う。
そこに現れたのは、長期休暇中の刑事・加賀恭一郎。被害者の知り合いに頼まれてのアドバイザー的な参加であったが…

777(トリプルセブン) 伊坂幸太郎 KADOKAWA

★群像劇、バイオレンス

著者2年ぶりの完全書き下ろしで、人気の殺し屋シリーズ最新作。

小気味いいテンポに洒落た会話、洗練されたプロットと伊坂ワールド炸裂の傑作クライムノベル。相変わらず張られた伏線の回収が上手く、飽きさせない展開に脱帽です。

シリーズ作ではあるが、単独でも楽しめる。が『マリアビートル』とは関係性が強めなため、事前時読んでおくと更に楽しめるかも…?

<あらすじ>
あの世界で一番不運な殺し屋が、また騒動に巻き込まれる――。『マリアビートル』では新幹線から降りられなかったが、今度は東京の超高級ホテルから出られない……!?

 

AX

シリーズ3作目。

マリアビートル

シリーズ2作目。

グラスホッパー

記念すべきシリーズ1作目。殺し屋たちが織りなす物語は唯一無二。

でぃすぺる 今村昌弘 文藝春秋

★本格、オカルト

『アニメ化したら面白そう』

それが最初に抱いた印象でした。

本作は、不可解な死を遂げたいとこが残した『町の七不思議』の謎を解き明かすため奔走する少年少女を描いた冒険譚。七不思議がモチーフなのでオカルト的要素を含んだ展開となっている。

しかしそこはもちろん『死人荘の殺人』の著者今村昌弘。ただのオカルト話で終わらせるわけはなくミステリとして要素もふんだんに盛り込まれている。

はたして本作は本格ミステリなのか?オカルト小説なのか?それはぜひ読んでご判断いただきたい。

私的には『少年少女の冒険譚』一言で表すならばこれが一番しっくりくる。

<あらすじ>

小学校最後の夏休みが終わった。小学校卒業まであと半年。
ユースケは、自分のオカルト趣味を壁新聞作りに注ぎ込むため、〝掲示係〟に立候補する。この地味で面倒だと思われている掲示係の人気は低い。これで思う存分怖い話を壁新聞に書ける!……はずだったが、なぜか学級委員長をやると思われたサツキも立候補する。

優等生のサツキが掲示係を選んだ理由は、去年亡くなった従姉のマリ姉にあった。
マリ姉は一年前の奥神祭りの前日、グラウンドの真ん中で死んでいた。現場に凶器はなく、うっすらと積もった雪には第一発見者以外の足跡は残されていなかった。つまり、自殺の可能性はなく、マリ姉を殺した犯人が雪が積もる前に凶器を持ち去ったはず。犯人はまだ捕まっていない。

捜査が進展しない中、サツキはマリ姉の遺品のパソコンの中に『奥郷町の七不思議』のファイルを見つける。それは一見地元に伝わる怪談話を集めたもののようだったが、どれも微妙に変更が加えられている。しかも、『七不思議』のはずなのに六つしかない。警察がこの怪談に注目することはなかった。そして、マリ姉に怪談を集める趣味がなかったことをサツキはよく知っている。

マリ姉がわざわざ『七不思議』を残したからには、そこに意味があるはず。
そう思ったサツキは掲示係になり『七不思議』の謎を解こうとする。ユースケはオカルト好きの観点から謎を推理するが、サツキはあくまで現実的にマリ姉の意図を察しようとする。その二人の推理を聞いて、三人目の掲示係であるミナが冷静にジャッジを下す……。

午後のチャイムが鳴るまでは 阿津川辰海 実業之日本社

★本格、短編集

学園を舞台にした日常系ミステリ短編集。登場キャラクターやストーリーは明るめなので、ポップで軽めな印象。米澤穂信の『氷菓』の明るめバージョンみたいな感じ。

<あらすじ>
九十九ヶ丘高校のある日の昼休み、2年の男子ふたりが体育館裏のフェンスに空いた穴から密かに学校を脱け出した。タイムリミットは65分、奴らのミッションは達成なるか
(第1話「RUN! ラーメン RUN!」)。
文化祭で販売する部誌の校了に追いつめられた文芸部員たち。肝心の表紙イラストレーターが行方不明になり、昼休みの校内を大捜索するが――
(第2話「いつになったら入稿完了?」)。

他3編の合計5編で紡がれる、他人から見れば馬鹿らしいことに青春を捧げる高校生たちの群像劇と、超絶技巧のトリックが見事に融合。稀代の若き俊英が“学校の昼休み”という小宇宙を圧倒的な熱量で描いた、愛すべき傑作学園ミステリ!

鏡の国 岡崎琢磨 PHP研究所

★二転三転、本格

趣向を凝らした構成、引き込まれる展開、そして驚くべき結末…
ミステリの要素がいっぱい詰まった良作です。
500ページ近いボリュームにも関わらず、一気に読めてしまいました。

<あらすじ>
大御所ミステリー作家・室見響子の遺稿が見つかった。それは彼女が小説家になる前に書いた『鏡の国』という私小説を、死の直前に手直ししたものだった。「室見響子、最後の本」として出版の準備が進んでいたところ、担当編集者が著作権継承者である響子の姪を訪ね、突然こう告げる。「『鏡の国』には、削除されたエピソードがあると思います」――。削除されたパートは実在するのか、だとしたらなぜ響子はそのシーンを「削除」したのか、そもそも彼女は何のためにこの原稿を書いたのか……

或るスペイン岬の謎 柄刀一 光文社

 

或るエジプト十字架の謎

 

或るギリシア棺の謎

 

或るアメリカ銃の謎

 

ちぎれた鎖と光の切れ端 荒木あかね 講談社

★本格、クローズドサークル

江戸川乱歩賞受賞第一作

本作は二部構成となっていて、前半の話を受けて後半の話が成立している。第一部では絶海の孤島を舞台に巻き起こる連続殺人事件。後半はその事件の後起こる次の事件を描いている。

<あらすじ>
2020年8月4日。島原湾に浮かぶ孤島、徒島(あだしま)にある海上コテージに集まった8人の男女。その一人、樋藤清嗣(ひとうきよつぐ)は自分以外の客を全員殺すつもりでいた。先輩の無念を晴らすため--。しかし、計画を実行する間際になってその殺意は鈍り始める。「本当にこいつらは殺されるほどひどいやつらなのか?」樋藤が逡巡していると滞在初日の夜、参加者の一人が舌を切り取られた死体となって発見された。樋藤が衝撃を受けていると、たてつづけに第二第三の殺人が起きてしまう。しかも、殺されるのは決まって、「前の殺人の第一発見者」で「舌を切り取られ」ていた。

素敵な圧迫 呉勝浩 KADOKAWA

★短編集

『爆弾』『スワン』の気鋭が放つ全6編の短編集

面白いと云っていいのか?ミステリと云っていいのか?そんな疑問を感じながら読み進めてみたが、結果面白いという結論に至った。

<あらすじ>
「ぴったりくる隙間」を追い求める広美は、ひとりの男に目を奪われた。あの男に抱きしめられたなら、どんなに気持ちいいだろう。広美の執着は加速し、男の人生を蝕んでいく――(「素敵な圧迫」)。

ヴァンプドッグは叫ばない 市川優人 東京創元社

★本格、SF、長編

まず一言『おもしろい』

それが最初の感想でした。冒頭から引き込ませる展開と語り口。内容もさることながら読み易さもありページをめくる手が止まらない止まらに!気づけばあっという間の読書体験でしたね。

もちろん最後のどんでん返しも忘れてはいませんよ!

シリーズ5作目という事もあり、登場人物など今までの作品を読んでいた方がより物語に入り込める作品です。(逆をいうと本作から読むと若干分かりにくい部分はある。読めなくはないけど)

<あらすじ>
U国MD州で現金輸送車襲撃事件が発生。襲撃犯一味のワゴン車が乗り捨てられていたのは、遠く離れたA州だった。応援要請を受け、マリアと漣は州都フェニックス市へ向かう。警察と軍の検問や空からの監視が行われる市内。だがその真の理由は、研究所から脱走した、二十年以上前に連続殺人を犯した男『ヴァンプドッグ』を捕らえるためだった。しかし、『ヴァンプドッグ』の過去の手口と同様の殺人が次々と起きてしまう。
一方、フェニックス市内の隠れ家に潜伏していた襲撃犯五人は、厳重な警戒態勢のため身動きが取れずにいたが、仲間の一人が邸内で殺されて…!? 厳戒態勢が敷かれた都市と、密室状態の隠れ家で起こる連続殺人の謎。マリアと漣が挑む史上最大の難事件!

焔と雪 京都探偵物語 伊吹亜門 早川書房

★短編連作集、本格

5編からなる短編連作集で、各編ともにそれぞれよくできてはいるが極端に驚く話ではない。のだが実は…という趣の展開。詳細は実際に読んで体験してもらいたいので伏せます…

『そうきたか…』と思うはず!

<あらすじ>
主人公は二人。鯉城(りじょう)と露木(つゆき)。元警察官の鯉城と訳あり貴族の露木は子供のころからの友人であり現在は鯉城探偵事務所の共同経営者。病弱な露木と健康な鯉城は、主に鯉城が動的な役割を担い、露木が頭脳的な役割を担っている。(鯉城も頭自体はよく回る方だが、露木がそのうえをいく感じ)

それぞれの事件もさることながら、二人の関係性も本作では鍵となったりする。ただの幼馴染というだけではなさそうなのがポイントなのだが…

シリーズ化したら面白そうなのだけどな~

可燃物 米澤穂信 文藝春秋

★短編連作集、警察、本格

『黒牢城』では史上初のミステリーランキング4冠を、『満願』『王とサーカス』で二度のミステリーランキング3冠を達成した著者初の警察ミステリ。

意外といえば意外でしたね。著者の長い経歴の中で警察ミステリが無かったというのは。満願の中の短編で警察官がテーマの話はありましたが、一冊丸々警察官が主人公の著書ははじめてとのことです。

しかし、そこはさすが米澤穂信。面白かった。全部で5編ありますが、謎の提示とその解決。短編ならではのテンポの良さと、話のバリエーションが◎。ついつい読み進めてしまいました。
(デメリットとしては『壮大な物語にはならない』といったことでしょうか)

キャラクターの葛警部もだいぶ癖のある人物で、捜査官として非常に優秀だが、人間的は周囲からあまり好まれるような人物ではない。それでも有能がゆえに事件を解決に導いていく。

是非シリーズ化してもらいたいのと、長編でも読んでみたい、そう思わせてくれる作品でした。

<あらすじ>
太田市の住宅街で連続放火事件が発生した。県警葛班が捜査に当てられるが、容疑者を絞り込めないうちに、犯行がぴたりと止まってしまう。犯行の動機は何か? なぜ放火は止まったのか? 犯人の姿が像を結ばず捜査は行き詰まるかに見えたが……(表題作の「可燃物」)

あなたには、殺せません 石持浅海 東京創元社

★短編集、倒叙ミステリ

かなり独特な設定の倒叙ミステリ。なにが特殊かというと、本作の中にNPO法人が登場するのだが、その法人は『罪を犯すな悩む人が相談にやってくる場所。そして相談員はそんな犯罪者予備軍たる人々から聞き出した犯罪計画の穴をつぎつぎと指摘していく』という法人であるということ。

その法人が特殊なのは、犯罪をただ単純に止める、というのではなく、計画の穴を指摘するという点。当然完璧な計画などないので、結果的には思いとどまらせる…となるはずなのだが…

本作は5編の短編からなっている。どの話も一ひねりされており、飽きることなく読むことが出来る。というかなかば感心しながら読んでしまった。

読後感は決して良いものではないが、「人間って…」って感じを味わえる。

雰囲気的には、漫画の死役所とか笑うセールスマンみたいな印象。もしくは世にも奇妙な物語でありそうな話。

アリアドネの声 井上真偽 幻冬舎

★極限状態、震災、サバイバル、タイムリミット

本作の特徴を一言で表現すると『極めて映画的』である。そしておもしろく一気読みができる。

主人公の内面にある『過去との葛藤』、ドローンという現代機器がモチーフ、地震による極限状態、などなど、状況設定、テーマ等、非常に高品質なエンターテインメントである。

中だるみすることのないストーリー展開に一気読み必至。主人公も過去の出来事に葛藤していて、それが現在の自身の行動原理にもなってる。その主人公がどういった行動を起こし、どのように変化・成長してくのかも楽しみの一つ。

もちろんミステリとしての要素も含まれており、序盤から張られた伏線が、終盤回収されることで驚きとともに、心地よい満足感を与えてくれる。(圧倒的な驚きではないけどね)

<あらすじ>
救えるはずの事故で兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)して活動する中川博美だった――。
崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう。ハルオは一台のドローンを使って、目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。

 

アンリアル 長浦京 講談社

★短編連作集、スパイ、アクション

話の進行は非常に『連続ドラマ』的、もしくは『連載漫画』的である。両親の死の真相と犯人の逮捕という主人公の目的が全体のベースにありながら、1つ1つの事件を1話完結で進めていくといった形式。登場人物によっては序盤に登場しながら、後半のキーパーソンになる人もいるなど、伏線と回収もしっかりとなされている。特務機関的な位置づけや世界的な陰謀など大きなスケールで展開される物語も◎。

その他、アクションや近未来SF的な部分などエンタメ要素がふんだんにもりこまれている。大どんでん返しがあるわけではないが、質の良いエンターテインメント作品と言える。

<あらすじ>
主人公の『沖野修也』は両親の死の真相を探るため、引きこもり生活を脱した19歳の警察官。
警察学校在学中、ある能力を使って二件の未解決事件を解決に導いたが、推理遊び扱いされ警察組織からは嫌悪の目を向けられることになってしまう。
そうした人々の目は皆、暗がりの中で身構える猫のように赤く光って見える。それこそが、沖野の持つ「特質」だった。
ある日、単独行動の挙句、公安の捜査を邪魔したことで、沖野は副所長室に呼び出され聞きなれない部署への異動を命じられる。
「内閣府国際平和協力本部事務局分室 国際交流課二係」。
そこは人知れず、諜報、防諜を行う、スパイ組織だったのだ。
日本を守る暗闘に巻き込まれた沖野は、闇に光る赤い目の数々と対峙していくことになるのだが…。

しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人 早坂吝 光文社

若干グロい内容が含まれるので、苦手な方はご用心。大丈夫な方にはおすすめ。キャラクターの掘り下げや感動的な話ではない。純粋にどんでん返し系のミステリを求めている人向け。(と言ってもそこまで大どんでん返しがあるわけではないが)

<あらすじ>
「六つの迷宮入り凶悪事件の犯人を集めた。各人に与えられた武器で殺し合い、生き残った一人のみが解放される」。女名探偵の死宮遊歩は迷宮牢で目を覚ます。姿を見せないゲームマスターは6つの未解決事件の犯人を集めたと言うが、ここにいるのは7人の男女。全員が「自分は潔白だ」と言い張るなか、一人また一人と殺害されてゆく。生きてここを出られるのは誰なのか?

 

恋する殺人者 倉知淳 幻冬舎

★本格、恋愛

本作は質の良い本格ミステリをサクッと楽しみたい方におすすめ。

良くも悪くも話のボリュームが少ないので、短時間で楽しむことが出来るのが特徴。
伏線とその回収もしっかりしているので、納得感もある。
各キャラクターの掘り下げはあまりされていないので、キャラクターの行動理由への理解や、キャラクターへの感情移入はあまりできないといった感じ。
それでも読了後は『ミステリを読んだ感』をしっかりと持てるので、時間の無いかたにおすすめ。

<あらすじ>
大好きな従姉の事故死に不審を抱く大学生・高文は、彼に片思いするフリーター女子・来宮を“助手”に真相を探っていく。大型猫科肉食獣を思わせる担当刑事・鷲津にあしらわれながら“捜査”を進める高文だが、彼が協力を依頼した人が次々と殺されていく。一体、何がどうなっているのか――?

歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理 三津田信三 KADOKAWA

★短編連作集、ホラー、本格

本作を一言で表すと、ホラー要素(本作では妖怪や怪談といった内容)を含んだ本格ミステリ。

それぞれの事件は、一見オカルト的で説明がつかないように見える。しかし、そのオカルト的要素を排除していくことで見えてくる真相はまさに『ミステリ』。

<あらすじ>
瀬戸内にある波鳥町。その町にある、かつて亡者道と呼ばれた海沿いの道では、日の暮れかけた逢魔が時に、ふらふらと歩く亡者が目撃されたという。かつて体験した「亡者」についての忌まわしい出来事について話すため、大学生の瞳星愛は、刀城言耶という作家が講師を務める「怪異民俗学研究室」、通称「怪民研」を訪ねた。言耶は不在で、留守を任されている天弓馬人という若い作家にその話をすることに。こんな研究室に在籍していながらとても怖がりな馬人は、怪異譚を怪異譚のまま放置できず、現実的ないくつもの解釈を提示する。あの日、愛が遭遇したものはいったい何だったのか――(「第一話 歩く亡者」)。

時計泥棒と悪人たち 夕木春央 講談社

★短編連作集、本格

前作『方舟』で話題を集めた著者の新作。

大正時代を舞台とした、短編ミステリ6編。各タイトルは次の通り。『加右衛門氏の美術館』『悪人一家の秘密』『誘拐と大雪』『晴海氏の外国手紙』『光川丸の妖しい晩餐』『宝石泥棒と置時計』。

主人公の蓮野と井口がいい味を出している。元泥棒で逮捕歴のある蓮野が探偵役、語り手の井口が助手役といった感じで進行する。

話の中身も、密室あり、誘拐あり、もちろん殺人事件もありと幅広くバリエーションに富んでいる。そのどれもが高いレベルで著者の力量を感じられる。

ページ数も500ページ以上あり、ボリューム満点!珠玉のミステリ体験をぜひお楽しみください。

 

私雨邸の殺人に関する各人の視点 渡辺優 双葉社

★本格、クローズドサークル、密室

本格ミステリの要素がふんだんに詰まった一作。

土砂崩れにって外界と分断された館で起こる殺人事件。しかも密室。本格ミステリの要素がふんだんに詰まった良作ミステリ。

本作の特徴は、明確に登場人物の視点を切替えながら物語が進むことである。その中で徐々に全容が分かってくるという仕組み。終盤「作者からの挑戦」もあるので、まさに本格ミステリっといった印象。やっぱり本格ミステリはこうでなきゃ!

ローズマリーのあまき香り 島田荘司 講談社

★本格、密室

名探偵御手洗潔シリーズ最新作。

本作は序盤の物語への引き込みが半端ない。

伝説のバレリーナ『クレスパン』がバレエの公演中に殺害された。しかも密室となった控室で。死亡推定時刻は2幕目と3幕目の間の休憩時間。しかし観客、関係者含め全員が3幕目、4幕目を踊るクレスパンを目撃している。

「どういうこと?」

ミステリだからもちろん序盤に謎の提示があるのは当たり前なのだが、この不可解な謎が秀逸でしたね。中盤にも『序盤の謎を解決するためのヒントとなる謎』も登場するのですが、それらが全て一つにつながっていく点も面白い要素の一つでした。

ちなみに本作は600ページを超えるボリュームと、歴史に関する部分も多いのでじっくり時間をかけて読む人に向いている一冊かな、と感じました。

香港警察東京分室 月村了衛 小学館

★アクション、警察

アクションに重きを置いた警察小説。著者の得意ジャンルと言えるのではないだろうか。

内容はタイトル通り香港も重要な要素となっており、主要登場人物の半分は香港警察のメンバーである。中国と日本の国際関係や、中国と香港の関係をフックにしながら、裏社会の争いなど手に汗握るアクションが繰り広げられる。

魔女と過ごした七日間 東野圭吾 角川書店

★少年の冒険×警察ミステリ×空想科学

記念すべき著者100作品目。累計200万部を超える人気シリーズ『ラプラスの魔女シリーズ』の最新作にしてシリーズ3作品目。

科学とミステリーを融合させた東野圭吾らしいミステリ作品。そこに警察ミステリと少年の冒険譚も加わり、これで『面白くないわけがない』というくらい楽しめる要素がてんこ盛り。

本作はシリーズ3作品目なので、前作の2作品を読んでおくとより一層、本シリーズの世界観を楽しむことが出来る。下記に過去2作品もご紹介いたします。
ラプラスの魔女

★空想科学×ミステリ

シリーズ1作品目にして著者80作品目。ミステリと空想科学を融合させた作品で、ガリレオシリーズに近い印象。ガリレオシリーズよりももう少し『空想科学』の要素が強く、捉え方によっては『なんちゃって科学』というか『ファンタジー』に感じる人もいるかも。それでも程よいバランスでミステリとなっているし、何より続きが気になるストーリー展開と物語の構成は『さすが』の一言。

ついつい時間を忘れて読みふけってしまう一冊。

魔女の胎動

★空想科学×ミステリ、短編連作集

木挽町のあだ討ち 永井紗耶子 新潮社

★時代もの(江戸)、短編連作集

本書を読み終わって最初の感想を一言で表すと『見事』に尽きる。読了後の清々しさといい、各所に散らばっていた伏線の回収具合といい、各話の人情話、登場人物の悲哀などなど。ページ数は260ページ程度なので、非常に凝縮された一冊と言える。

<あらすじ>
芝居小屋の立つ木挽町の裏通りで、美少年『菊之助』は父親を殺めた下男を斬り、みごと仇討ちを成し遂げた。二年後、ある若侍が大事件の顛末を聞きたいと、木挽町を訪れる。芝居者たちの話から炙り出される、秘められた真相とは…。

化石少女と七つの冒険 麻耶雄嵩 徳間書店

★学園、短編連作集

学園を舞台にした短編連作集。化石に青春を捧げる女子高生が名探偵(迷探偵)ぶりを発揮する学園ミステリ。本作の特徴は、『主人公が推理で犯人を解決していく』というわけではなく、惜しいところまで推理するのだが、ワトソン役の助手にミスリードされていく、というかなり特殊な流れになっている。もちろんそれには訳があるのだが…。それに終盤驚きの展開が待っていて…。

リバー 奥田英朗 集英社

★警察
★このミステリーがすごい2023年版 第9位

骨太の警察小説を読みたい!という方にぴったりの本。本作はなんといってもそのボリューム。700ページ近いボリュームがあり、緻密で重厚なストーリーが紡ぎだされる。

<あらすじ>
群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で相次いで女性の死体が発見!
十年前の未解決連続殺人事件と酷似した手口が、街を凍らせていく。
かつて容疑をかけられた男。取り調べを担当した元刑事。
娘を殺され、執念深く犯人捜しを続ける父親。
若手新聞記者。一風変わった犯罪心理学者。新たな容疑者たち。
十年分の苦悩と悔恨は、真実を暴き出せるのか。
人間の業と情を抉る無上の群像劇×緊迫感溢れる圧巻の犯罪小説!

 

地図と拳 小川哲 集英社

★バイオレンス
★このミステリーがすごい2023年版 第9位
★第168回直木賞受賞作
★第13回山田風太郎賞受賞

2022年を席捲した傑作小説。こちらもボリュームがあり600ページを超える。
日露戦争から第2次大戦までの満州の名もない都市を舞台としており、若干読む人を選ぶ作品という印象。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。

<あらすじ>
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。

名探偵のままでいて 小西マサテル 宝島社

★短編連作集、安楽椅子探偵

比較的サラっと読めるので、普段あまり本を読まない方にもお勧めできる。それでいて、古典ミステリに対する愛情を感じられる部分が随所にあふれている。そんな一冊。

<あらすじ>
小学校の先生である主人公の『楓』。かつては小学校の校長だった切れ者の祖父は現在認知症を患い、介護を受けながら暮らしていた。

赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。 青柳碧人 双葉社

★短編連作集、意外と本格、童話がモチーフ

25万部突破の人気ミステリ第2弾。童話がモチーフの一風変わったミステリで、少しふざけたタイトルとは裏腹に意外としっかりとしたミステリとなっている。

パッと見で、ふざけた内容かな~と思っていると(表紙も含めて)、内容とのギャップに戸惑います(いい意味で)。ミステリ好きなら一読の価値あり。

主人公の赤ずきんは旅の途中、行く街行く街で殺人事件に遭遇する。そしてまさに名探偵の如く、その事件をことごとく解決していく。

本作は『ピノキオ』『白雪姫』『ハーメルン』『三匹の子豚』などがメインモチーフとなっている。舞台や設定は上手く使いつつ、しかし、もちろん全くの別物としてミステリに組み込まれている点が秀逸。何となく知っている話が「こうなるのか…」とミステリ要素以外もついつい楽しんでしまいます。

 

以下の過去作もおすすめ!

 

赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。

童話×ミステリの第1弾。
赤ずきんが旅の途中、事件に遭遇していくという内容。主人公は赤ずきんがだ、1篇1篇は他の童話がモチーフとなっている。

ふざけたタイトルとは裏腹にしっかりとしたミステリとなっており、ギャップが面白い。

むかしむかしあるところに、死体がありました。
日本の昔話×ミステリの第1弾。
誰もが知っている日本の昔話がミステリにアレンジされたら…的な内容。
一見ふざけているかと思いきや、しっかりとミステリされているので非常に面食らう。
(いい意味で)
一読の価値はある。

むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。
日本の昔話×ミステリの第2弾。
こちらも面白いですよ。

栞(しおり)と嘘の季節 米澤穂信 集英社

★青春ミステリ、学園

直木賞受賞後第一作。
25万部突破の『本と鍵の季節』の続編。

図書館で見つかったトリカブトの花の栞(しおり)をめぐる物語。図書委員の堀川と松倉は犯人捜しを始めるのだが…。

前作『本と鍵の季節』でも物語の中心を担った堀川次郎と松倉詩門が今回も物語の中心となる。しかし今回はもう一人物語の中心となる人物が登場する。『瀬野』という女子生徒だ。圧倒的な美貌で人の目を引くが、どこか人を寄せ付けない雰囲気を持った生徒である。

そんな三人がそれぞれの理由からお互い本音を隠しながらも、猛毒の栞を追いかけるというのが本作の構成です。堀川と松倉の友情、栞をめぐる謎、瀬野の嘘と、青春ミステリがこれでもかと詰め込まれています。

踏切の幽霊 高野和明 文藝春秋

★ホラー、幽霊

本作のストーリーテリングはミステリ調となっているが、ホラーである。

妻を亡くした記者が雑誌の記事の特集で、心霊写真と心霊動画の真相を追うことになる。その写真と動画には女性が写っていたのだが、どうやら同一人物のよう。果たしてその女性は実在したのか?

本作は幽霊となった(であろう)女性がどこの誰なのかを追うことがストーリーの中心となる。その追跡劇自体はテンポよく、非常のミステリ的である。

しかし本作の本質はホラーでありオカルトである。なのでリアルなミステリでは無いのでご注意を。
(非常にミステリ的であり、話自体はとても面白いものですけどね!)

invert II 覗き窓の死角 相澤紗呼 講談社

★倒叙ミステリ、シリーズ物

5冠獲得ミステリ『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、発売即重版10万部突破『invert 城塚翡翠倒叙集』に続く、シリーズ3作目!

本作は大きく分けて2つの編からなる。短編1つと中編1つ。どちらも倒叙ミステリとなっていて、最初に犯人はわかっている。もちろん探偵側は主人公の城塚翡翠。

あとは城塚翡翠がどうやって犯行を立証するのか?というのが本作の楽しみどころ。犯行の証拠が何で、アリバイはどうやって崩すのかを探していく。

倒叙ミステリは好き嫌いが分かれるミステリジャンルであるが、本作はさすが!というべきか、「さらに実は…」という展開も待っている。

また、1作目の『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のネタバレも若干含んでいるので、1作目を未読の方はご注意を。

変な絵 雨穴 双葉社

★短編連作

アマゾンレビューが超高評価:★4.7(レビュー数2491件:2023年1月15日時点)

前作の『変な家』もそうでしたが、冒頭の物語への引き込み方が抜群に上手いんですよね。「次、どうなるの?」と「えっ、どういうこと」が重なっていくというか、とにかく続きが気になるようなストーリー展開なんです。

タイトル通り絵が『鍵』になっていて、各章とも絵の謎を追う形で物語は進行する。ブログに掲載された絵の謎、保育園児が描いた絵と園児の失踪、惨殺死体と現場に残された風景画、そしてとある少女の描画テスト…。

いや~、面白かった。なかなかネタバレ無しで伝えるのが難しいので、とりあえず読んでください。

君のクイズ 小川哲 朝日新聞出版

★エンターテインメント

189ページに凝縮されたイッキ読み必至のエンターテインメント『クイズ』小説。

<あらすじ>
クイズ番組『Q-1グランプリ』決勝に出場した三島玲央は、対戦相手・本庄絆がまだ一文字も問題が読まれぬうちにボタンを押し正解し、優勝を果たすという不可解な事態を訝しむ。いったい彼はなぜ正答できたのか?真相を解明しようと彼について調べ、決勝を1問ずつ振り返る三島はやがて…。

オーソドックスなミステリーとは趣が異なる、クイズ番組に特化した作品。クイズ番組の裏側や、クイズプレーヤーの心理が良くわかるようになる。ミステリー小説かと言われると、素直にYesとは答えにくい内容だが、「なぜ一文字も読まれない問題を答えられたのか?」つまりは「やらせ」があったのか、という問題を考察していく過程は非常に面白かった。

何より、短い内容でイッキに読めるので気晴らしの読書などに最適。

爆弾 呉勝浩 講談社

★第167回直木賞ノミネート作品
★このミステリーがすごい2023年国内編第1位
★ミステリが読みたい! 2023年版国内編第1位

ぜひ、映画化してほしい。

本作はとにかく犯人とおぼしき男、自称『スズキタゴサク』が際立っている。一見すると冴えない中年男。どう見ても人生の落伍者。勝ち組か負け組かで言ったら圧倒的に負け組。そして圧倒的な底知れなさ。

そんな男が、居酒屋の店主への暴行と、自動販売機の器物破損で逮捕された。取り調べのさなか、その男は『霊感』と称して『爆弾』が爆発することを予言する。そして実際に爆発が起きるのだが、犯人はその男なのか、それとも…。

謎の男と警察の緊張感のある攻防、捜査にあたる現場の警察官、過去の因縁など様々な要素が絡み合い、クライマックスへと突き進む疾走感。

現時点での著者最高傑作。

いけないⅡ 道尾秀介 文藝春秋

★体験型ミステリー

本当にこの作者は上手い。

何が上手いって『こーなったらやだな~』ていう方向に物語を展開させることが。
読んでいて『うゎ~』ってなる。(嫌な意味で)

それでいて、圧倒的に面白い!(心境としてすごい複雑)

本書の特徴としては、前作同様、最後の写真で状況が一変する仕掛けが施されている。
明確な回答が語られるわけではないので、読者自身で考察する必要があり、

「えっ、いや、んっ…んん?」

となる。(私はそうなった)

皆さんにも、ぜひともそんなミステリー体験をしてもらいたい!

方舟 夕木春央 講談社

★本格

★週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位
★このミステリーがすごい2023年国内編第4位

『ラストの衝撃がハンパない。』
本作の感想はこの一言に尽きます。

話しの内容自体は、20代の若者が学生時代の友人や従兄弟と面白半分で入った地下施設に閉じ込められてしまい、さらにそこで殺人事件が起こって…
といった内容です。

ミステリー小説にありそうと言えばありそうな展開、なのですが…
実際には飽きさせない展開や、巧妙に張られた伏線などかなりハイレベル。謎の親子の登場や極限状態でギクシャクしてくる人間関係。

そして、ラストの衝撃がハンパない(2回目)

ぜひ最後まで読んでほしい。

♯真相をお話しします 結城真一郎 新潮社

★現代、本格
★このミステリーがすごい2023年国内編13位
リモート飲み会やyoutuberなど『今』をテーマにした5編の短編集。
どの話もレベルが高いので、個人的にはこのミスでもっと上位に入るかと思ったのだが…
読みやすさは◎なので、「長い話はちょっと苦手」という人にもおすすめできる良作。

爆発物処理班の遭遇したスピン 佐藤究 講談社

★SF×ミステリー
★このミステリー2023年国内編第6位
どう表現したらいいのか分かりづらい作品。面白いことは面白い。ただ人を選びそう。
『ミステリー×SF』
ミステリーが好きで、SFも好きなら間違いなく買い!です。

名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件 白井智之 新潮社

★本格

★このミステリーがすごい2023 国内編第2位

帯にもあるように、解決編が圧巻。二転三転する推理とその構成力が抜群!
とは言え、本書はミステリー好きの人向けの作品のように感じる。
理由は3つ。

1,まず、長い。409ページ。読了まで時間がかかる。

2,アクション性が低い。殺人事件とその解決を推理(言語を用いた論理的解釈)することが中心
なので、探偵の説明を聞くシーンが多い。

3,探偵、密室、クローズドサークルなどミステリー好き要素満載。

逆を言えば、ミステリー好きには間違いなくお勧めできる一冊。

話のモチーフは『人民寺院』。ジャングルの奥地で集団生活を送っているカルト教団とそこで起こる殺人事件。調査団の一員として送り込まれた助手を助けるべく行動を起こす一人の探偵の物語。

録音された誘拐 阿津川辰海 光文社

★誘拐

「ヤバい!マジでヤバい作品に出合ってしまった!」と思えるくらい面白かった。
今年刊行された国内ミステリーで読んだ作品の中でトップ3に入る作品。

ちなみに『このミステリーがすごい2023年国内編』では15位だった…。
個人的にはもっと上位に入るかな~と思っていたので意外(というか残念)
面白かったんだけどな~。

ページ数は455ページと比較的長めの作品なのだが、読み始めるとそのまま最後まで読めてしまう。それくらい物語の展開が面白く、そしてワクワクさせられるストーリーであった。

内容は、タイトルからも分かるように『誘拐』がメインとなる。機器が発達した今の時代、誘拐は犯人にとって非常に不利な犯罪となっているとのこと。それでも、そんな状況の中、現代のツールを活用して(逆手にとって)可能犯罪として描いている。

もちろん、誘拐以外の部分も丁寧に作り込まれたプロットやキャラクターなど、本作の完成度は非常に高いレベルにあるといえる。登場人物の過去、二転三転する真相などなどイッキ読み必至。

<あらすじ>
類まれな推理力を持ち、自身の探偵事務所を営む『大野糺』は何者かに誘拐された。ある種の特殊能力級の耳の良さを持つ助手『山口美々香』が、事件の真相に迫ってゆくのだが・・・。

灰かぶりの夕海 市川憂人 中央公論新社

★どんでん返し、本格
ストーリーの中盤、世界の様相が一変する様に驚愕必至。
恋人を失った主人公の前に、恋人そっくりの女性が現れるという、ちょっと不思議な、ボーイミーツガール的な物語。「この少女はいったい誰なのか?」「なぜ死んだはずの恋人と同じ顔をしているのか?」という謎を抱えつつも、仕事先で殺人事件に遭遇してしまい…。
謎と謎が絡み合いながら、中盤明かされる世界の真実に、ページをめくる手が止まらなくなります。
恋人を失った主人公視点で描かれるため、全体的には切なさと危うさが漂う雰囲気です。しかし途中で発生する殺人事件はしっかりと作られており、本格ミステリーも感じることが出来ます。
しいて言えば大前提に若干疑問を抱きもするが、序盤から伏線はしっかりと貼ってあるので、ミステリーとしては良く出来ているといえる。

幻告 五十嵐律人 講談社

★リーガル、タイムリープ
『リーガルミステリー×タイムリープ』という、今までありそうでなかったジャンル。
現役弁護士作家ならではの、リアリティのある裁判や法曹界の描写。そこにタイムリープというSF要素も加わり話が加速度的に面白くなる。
特に序盤から中盤にかけての展開は、この後どうなるのか気になって仕方なかった。
残念ながら中盤以降はややペースダウンというか、時系列が複雑になったりと、もったいない感じがする。「面白いんだけどちょっと惜しい」とった作品。

馬鹿みたいな話!昭和36年のミステリ 辻真先 東京創元社

★本格、昭和ノスタルジー
高い評価を得た前作『たかが殺人じゃないか』の12年後を描いた続編。成長した風早勝利や、那珂一平といった面々が登場するので、前作のファンはもちろん、著者のファン、そして本格ミステリーファンにおすすめの一冊。
今作は黎明期のテレビ業界が舞台。生放送ドラマの最中に殺人事件が発生するという展開。往年のスターが多数登場すると共に、昭和の混沌とした雰囲気と余りある熱気が感じられるはず。
冒頭で事件は発生するのだが、物語はそこからかなりさかのぼってしまい、事件発生までしばらくは登場人物の状況であったり、時代背景の説明であったりにページが割かれるので、若干根気が必要であたりもする。

プリンシパル 長浦京 新潮社

★バイオレンス、ヤクザ、戦後
★このミステリーがすごい2023第5位
第二次大戦直後の日本。家業への、そして父への嫌悪から家を出ていた『綾女』は父の死をきっかけに家業を継ぐことなる。嫌悪していたヤクザ業を。
本作を一言で表すならば『長浦京作品らしいと言えばらしい、バイオレンスクライムノベル』
戦後の荒廃、混乱した日本を舞台に、運命に翻弄される一人に女性を中心に紡ぎだされる物語。

此の世の果ての殺人 荒木あかね 講談社

★本格、SF、終末世界
★このミステリーがすごい2023国内編11位

第68回江戸川乱歩賞受賞作。史上最年少の23歳による、選考委員満場一致での受賞。

<あらすじ>
小惑星「テロス」が日本に衝突することが発表され、世界は大混乱に陥った。そんなパニックをよそに、小春は淡々とひとり太宰府で自動車の教習を受け続けている。小さな夢を叶えるために。年末、ある教習車のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の死体を発見する。教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める――。

本書において特筆すべきはその世界設定である。小惑星衝突が発表され、世界中がパニックになった後の世界。インフラや行政など現代文明が徐々に崩壊し、絶望から自殺が続出する世界。ある意味、よくある世紀末的世界ともいえる。ゲームの『ラスト・オブ・アス』、漫画の『AKIRA』のような終末世界。正直その世界観だけで物語がいくつも出来てしまいそうな、物語として魅力的な世界観である。もちろん、江戸川乱歩賞なのでストーリーはミステリーなのだが・・・

ミステリーとしても良くできているし、ストーリー展開もとても引き込まれるものとなっている。これが新人の作品なのだ。今後が楽しみの作家がまた一人誕生したことになる。

六法推理 五十嵐律人 KADOKAWA

★連作短編集、法律、学園、社会派

大学を舞台とした法律ミステリー。本書の主人公は法学部の学生なので、弁護士が主人公のリーガルサスペンスではない。しかし、リーガルサスペンスとしての面白さは十分にありつつ、大学が舞台ゆえの青春ミステリーの要素もあるという1冊で2つの美味しさを兼ね備えた作品である。

本書は5章の短編から構成される連作短編集。怪奇現象、リベンジポルノ、放火事件、毒親問題、カンニング騒動。道具としてyoutubeやtwitterが用いられており、現代を反映した内容となる。

主人公は法学部4年の『古城行成』。古城が運営する「無料法律相談所」(通称「無法律」)に、経済学部3年の『戸賀夏倫』が訪問するところから物語は始まることになる。大きくは探偵役が古城で、アシストが戸賀だが、古城の推理には穴があったり間違えたりする。その点を戸賀が補ったり、場合によっては、探偵とアシストが逆になったり。言うなれば二人で一人の探偵コンビといったところ。名探偵を期待すると肩透かしを食らうが、逆に完全無欠の名探偵でないことが面白さとなっている。

表紙がイラスト、しかも結構アニメチックでポップなイラストだが、内容は意外と重めなので、良くも悪くもギャップがある。

エンドロール 潮谷験 講談社

★社会派、思想

前作『時空犯』でリアルサウンド認定2021年度国内ミステリーベスト10第1位に輝いた著者の、待望の長編!

<あらすじ>
とある哲学者が自殺した。その死を模倣するように若者の自殺が急増。その数200。哲学者の名前は陰橋冬。陰橋は自書『物語論と生命自律』の中で自殺を肯定していた。そして自らも実行したのだ。

主人公『雨宮葉』は新進気鋭の若手ミステリー作家。葉には若くして夭逝した姉がいた。姉もまた作家でありベストセラーも生み出した人気作家であった。そんな姉の作品の中に、陰橋冬が出資していたお店をモデルにしたものがあったのだ。葉は、姉の作品が姉の意図していない形で自殺を助長してしまうことを防ぐため奔走することになるのだが…。

俺ではない炎上 浅倉秋成 双葉社

★社会派、どんでん返し

前作『六人の嘘つきな大学生』が非常に好評であった著者の最新作。

イッキ読み必至‼冒頭のつかみから、ラストまでノンストップで物語が展開する疾走感が半端ない。序盤から色々なところに張られていた伏線の回収も見事。あのシーン、あの会話はここにつながるのか、という思いで感動するほどの完成度。超おすすめです。

特徴としては、なんといっても要所要所で挿入されるTwitterの投稿内容。物語に緊迫感を与えているのはもちろんだが、匿名の無責任さなど、現実でもあり得そうな部分は、なんだか考えさせられてしまうような・・・。

<あらすじ>
ある日突然、「女子大生殺害犯」とされた男。既に実名・写真付きでネットに素性が曝され、大炎上しているらしい。まったくの事実無根だが、誰一人として信じてくれない。会社も、友人も、家族でさえも。ほんの数時間にして日本中の人間が敵になってしまった。必死の逃亡を続けながら、男は事件の真相を探る。

入れ子細工の夜 阿津川辰海 光文社

★本格、短編集

前回の短編集『透明人間は密室に潜む』が2020年本格ミステリ・ベスト10で1位を獲得した著者による、第2短編集。

本作を一言で表すと『ミステリー好き大好きおかずてんこ盛り弁当』みたいなもの。もしくは『ミステリー好きのミステリー好きによるミステリー好きのための小説』。

著者のミステリーに対する膨大な知識や、過去の作品への愛情が端々に垣間見えるので、読んでいてニヤニヤが止まりません。そんなミステリーへのリスペクトが感じられる一冊です。なので、日ごろからミステリーが好きでよく読む人には非常におすすめ。逆をいうと、普段本を読まない人には厳しいかも。(話は面白いのだが、若干小難しい)

4編の短編からなっており、どの話も趣向を凝らした作品となっている。特に表題作でもある『入れ子細工の夜』は話が二転三転するので、どういう結末になるのか予想できない展開となっている。

 

揺籃の都 羽生飛鳥 東京創元社

★時代(平安)、本格

前作『蝶として死す:平家物語推理抄』の続編。と言っても内容は本作で単独なので、前作を読んでいなくても問題ない。前作が短編連作集だったのに対し、本作は長編となっている。

本作、話の内容は非常に面白く、またミステリーとしてもかなり本格的。クローズドサークル、密室事件などミステリー好きには、そそられる内容ばかり。

だが、残念ながら読む人を選ぶ作品でもあるように感じる。平安時代の平家の話ということもあり、時代背景や人物関係などを理解することに少し時間がかかる。ミステリー好きや読書好き、日常的に読書習慣があるのであれば問題はないが、普段本を読まない人は注意が必要。

内容としては、人探しから始まり、紛失物の捜索、殺人事件、怪鳥騒動などなど。多くの不可解な謎が連続して発生する中、主人公『平頼盛』は真相を突き止めることが出来るのか?

 

看守の信念 山城真一 宝島社

★刑務所ミステリー、社会派、人情

刑務所を舞台とした社会派ミステリー。刑務所という特殊な環境で起こる事件・謎はもちろんそれだけで面白い。だがそれだけではない。本作は、それぞれ事情を抱えた囚人と看守のやり取りを通して見えてくる、人間関係や心の交流などヒューマンな要素も存分に含んだ良作だ。

5編の短編で構成された短編集。それぞれが読み応えのある話となっている。各話のあらすじは下記の通り。

第一話「しゃくぜん」
釈放前の更生プログラムに参加した模範囚が、外出先で姿を消した。発見されるまでの「空白の30分」で何が起きたのか?

第二話「甘シャリ」
刑務所内で行われた運動会の翌日、集団食中毒事件が発生。果たして故意の犯行なのか。炊事係の受刑者が容疑者に浮上するが……。

第三話「赤犬」
古い備品保管庫で原因不明の火災が起きた。火の気もなく、人の出入りもなかったはずの密室でいったいどうして?

第四話「がて」
窃盗の常習犯である受刑者の心の拠り所は、あるジャズシンガーとの文通。しかし、その女性は実在していなかった――。

第五話「チンコロ」
「また殺される」と書かれた匿名の投書が刑務所に届く。差出人は元受刑者か。そして、投書に隠された意味とは?

本作の最大の衝撃はラストにある。その衝撃はぜひとも本書を読んで味わっていただきたい。ただその衝撃を味わうには、前作の『看守の流儀』を読む必要があるので、前作と合わせて読むことを強く、強くお勧めします。

看守の流儀

★刑務所ミステリー、社会派、人情

ラストの衝撃に『してやられた』と思うこと必至‼読んで損無し。

刑務所を舞台とした社会派ミステリー。
石川県の加賀刑務所を舞台に、刑務官と受刑者たちの織り成す五つの事件。
仮出所した模範囚の失踪(「ヨンピン」)、暴力団から足を洗う“Gとれ”中に起きた入試問題流出事件(「Gとれ」)、受刑者の健康診断記録とレントゲンフィルムの消失(「レッドゾーン」)など、刑務官たちの矜持と葛藤がぶつかり合う連作ミステリー。

廃遊園地の殺人 斜線堂有紀 実業之日本社

★本格

廃遊園地を舞台とした本格ミステリー。20年前とある事件が元で廃園となった遊園地「イリュジオンランド」で起こる殺人事件。

事件が起こってからの展開と、序盤から散りばめられていた伏線を回収する終盤は面白いと感じられる。だが、序盤から中盤までは展開が若干緩やかなので少しもどかしさも感じられた。

クローズドサークルで起こる本格ミステリー好きの方にはおすすめ。

五つの季節に探偵は 五木裕 角川書店

★探偵、短編集
5つの短編からなる短編集。どの話も、派手さはないが良く練られたミステリーであり、人間と心理に重きを置いた話となっている。
父親が探偵業を営んでいる少女が主人公であり、年代ごとに遭遇した出来事が5編、時系列で展開していく。
<イミテーション・ガールズ>
同級生から「担任の弱みを握ってほしい」と依頼された榊原みどりは、担任を尾行。順調に進んでいるように思えたのだが…。
<龍の残り香>
大学に進学したみどりは、友人から「とある人物にものを盗まれた」という相談を受けるのだが…。
<解錠の音が>
探偵事務所に就職したみどりは、ストーカー被害の調査を担当することになるのだが…。
<スケーターズ・ワルツ>
みどりは、旅先である女性から〈指揮者〉と〈ピアノ売り〉の逸話を聞かされる。そこに贖罪の意識を感じ取ったみどりは、彼女の話に含まれた秘密に気づいてしまい…。
<ゴーストの雫>
リベンジポルノの被害にあった妹のため、犯人捜索の相談に来た兄の依頼を受け調査を開始するが…。
本の表紙には比較的POPなイラスト(少女のイラスト)が使われているが、話の内容はそこまで軽くはなく、もう少し渋めとなっている。

断罪のネバーモア 市川優人 角川書店

★本格、警察風

「警察組織が民営化されたら」という設定になっている現代ミステリー。舞台は現代で、パンデミックが起こっていることから、世相としては今の世の中を反映している。しかし、警察組織が民営化されているという、ifの世界(現代パラレルワールド)となっているので若干近未来的な印象を受ける。

警察組織が民営化されている理由は、現実世界でもあったことだが、度重なる不祥事や労働環境の悪さからなる人で不足のため、組織改革が行われたということになっている。

設定が設定なので、警察としてのリアリティを追求したというよりも、他の警察小説との差別化を図った、という印象。民営化した理由など、後々の伏線につながる部分もあるのでこれ以上の言及はしないでおくが。また、設定はかなり特殊だが、内容は本格ミステリーとなっている。4編からなる短編連作であり、また全体を通しての事件も存在しているので、ミステリー好きも満足できる内容となるであろう。

<あらすじ>
主人公は、ブラックIT企業から転職した新米刑事の『藪内唯歩』。茨城県つくば警察署の刑事課で警部補の仲城流次をパートナーとし殺人事件の捜査にあたっている。
刑事課の同僚たちの隠しごとが唯歩の心を曇らせ、7年前の事件が現在の捜査に影を落とす。
ノルマに追われながらも、持ち前の粘り強さで事件を解決した先に、唯歩を待ち受ける運命は――。

ペッパーズ・ゴースト 伊坂幸太郎 朝日新聞出版

★エンターテインメント

伊坂作品らしい、どこか考えさせられつつ、クスッと笑えるエンターテインメント小説。

あらすじは下記の通り。
中学校の国語教師である『壇先生』は、とある特殊な条件下で他人の未来が見える特殊能力を持っていた。壇先生はその能力を『先行上映』と呼んでおり、本作の中でも重要な要素となる。そしてその能力『先行上映』によりとある事件へと巻き込まれていくのだが・・・。

本作は『壇先生』が語り手となるパートと、壇先生の生徒が書いた小説パートが交互に展開される、構成となっている。一見何の脈絡もない2つの物語だが、話が進むにつれ意外な展開を見せることになる。

今回の話には、ところどころでニーチェが引用されており、知っているとより楽しめるものとなるであろう。他にもジャッキーチェンの話など、ところどころに仕込まれているネタにより、登場人物の造形が深まっているのが作者らしさを感じてしまう。

伊坂幸太郎ファンは必読。そうでない方も是非。

真夜中のマリオネット 知念実希人 集英社

★サイコサスペンス、医療、アクション

とりあえず最後まで読んでいただきたい。どんでん返しと言っていいのかは若干微妙な気がするが、ラスト10ページでたどり着く真相で、「これは面白い小説だ」と感じられるはず。

終盤までは、比較的よくあるサイコサスペンス、な印象。展開のテンポは良いので、どんどん読み進めることは出来る。しかし、どこかで見たことがあるような印象が拭えない。表現が映像的であるため、「TVドラマに向いているな~」という感想を持ちながら読み進めていたのだが・・・。

いや最後の方で「‼」という印象になり、結果「面白かったかな」で終わりました。

あらすじは下記の通り。
婚約者を殺人鬼に殺された救急医の『小松秋穂』は、深い悲しみを抱えながらもなんとか職場に復帰をしたところだった。そこに運ばれてきたのは、交通事故で重傷を負った美少年『石田涼介』。無事、命を救うことができたが、手術室を出た秋穂に刑事が告げる。「彼は一晩かけて遺体をバラバラにする殺人鬼『真夜中の解体魔』だ」と。無実を訴える涼介に、ためらいながらも真犯人を探すことになる秋穂だが・・・。

硝子の塔の殺人 知念実希人 実業之日本社

★本格、クローズドサークル、密室、暗号

約500ページにもおよぶ大作であり、著者の作家デビュー10年を飾る記念すべき作品。また著者初の本格ミステリー長編でもある。

今まで刊行されてきた本格ミステリーへのオマージュ的な作品と言える。作中にも国内、海外を問わず数々の作家とその作品名が登場し、ミステリー好きをおおいに楽しませてくれる。ミステリーに詳しくないという方は、この作品に登場してくる作品を読めば立派なミステリーマニアになれること間違いないであろう。(結構な数の作品が登場しているし、どれも有名な作品である)

本作はいわゆる本格ミステリーと言われるものの中の、クローズドサークルと言われる『閉ざされた空間』の中で起こる事件が中心となる。何らかの理由(今回は雪崩)により、閉じ込められてしまい逃げ場のない状況で、殺人犯の恐怖と立ち向かうことになる。閉ざされているということは、犯人候補者が限られることになるため、作者と読者の推理勝負的な要素が強く出ることにもなる。また、本作には密室や暗号などミステリーの要素がふんだんに込められた作品となっている。

話の展開として、序盤~中盤にかけては比較的王道的な展開を見せる。転換点は中盤以降であり、そこからは驚きに満ちた展開となる。なので、序盤の展開で物足りなさなどを感じたとしても、ぜひとも中盤まで読み進めてほしい。そこから先は一気に読み切ってしまうであろう。

<あらすじ>
新薬開発により巨万の富を得た富豪「神津島太郎」。その神津が財力をつかい建てた硝子の塔。地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔である。雪が降り積もる山奥に建てられたその塔に集められた人々。富豪により『重大な発表がある』ということでそこに集められた様々なゲストたちである。刑事、霊能力者、名探偵、ベテラン作家、雑誌編集者。また富豪の身の回りの世話をする、執事、メイドに料理人、医者(主治医)。そして起こる殺人事件。下山しようにも雪崩により道は閉ざされ、人々は閉じ込められるのだが・・・。

雷神 道尾秀介 新潮社

★家族

最初に言っておきます。
夜にこの本を読んではいけない。次の日の朝が早い方は特に。寝れなくなります。
次の展開が気になって中断が出来ない。
謎が謎をよび、「どういうこと?」と思いながら、それでも先が気になり、そして終盤の展開に驚愕する。
気が付けば最後まで読んでしまっている…。そして寝不足になる(笑)。

派手なアクションがあるわけでもなく、突飛な設定があるわけでもなく、個性的な連続殺人鬼が出るわけでもない。
どちらかというと淡々と物語は進行していくにも関わらず、読むのをやめられない、止まらない。

過去作のシャドウ、龍神の雨、カラスの親指などが好きな方には間違いなく響く作品であろう。

<あらすじ>
母親が不審な死を遂げ、その翌年に起きた毒物混入事件では父親が犯人ではないか?と疑われ、
逃げるように村から出た一家。
それから31年、娘の希望で村を訪問することになるのだが…。
母はなぜ死んだのか?父は本当に犯罪を犯したのか?

死にたがりの君に贈る物語 綾崎隼 ポプラ社

★青春

本作は『青春ミステリー』と言ってよいだろう。そのため、どちらかというと若い読者に向いている内容である。物語の構成も、登場人物の感情に焦点をあてていることが多いので、読者の感情を刺激する作りとなっている。

なので、ハマる人はかなり『グッ』とくる展開となるが、そこまで感情が持ってこれないと、やや冷めた印象を抱くかもしれない。終盤アッとおどろく展開があるので、ミステリーとしてよくできているし、話のテンポもよい。

おすすめの読者層としては、若い方であり、普段あまり本を読まないが読んでみようかな?と思っている方など。

内容は少年少女(一部大人も居るが)の共同生活が中心であり、群像劇となっている。

<あらすじ>
全国に熱狂的なファンを持つ、謎に包まれた小説家・ミマサカリオリ。だが、人気シリーズ完結を目前に訃報が告げられた。奇しくもミマサカの作品は厳しい批判にさらされ、さらにはミマサカに心酔していた16歳の少女・純恋が後追い自殺をしてしまう。純恋の自殺は未遂に終わるものの、彼女は「完結編が読めないなら生きていても意味がない」と語った。
やがて、とある山中の廃校に純恋を含む七人の男女が集まった。いずれもミマサカのファンで小説をなぞり廃校で生活することで、未完となった作品の結末を探ろうとしたのだ。だが、そこで絶対に起こるはずのない事件が起きて――。

黒牢城 米澤穂信 角川書店

★本格 歴史

第166回直木賞受賞作品。
このミステリーがすごい2022年版国内編第1位。

織田信長が裏切った武将『荒木村重』が本編の主人公。一代にして名を上げ名将との誉れ高い武将である。そこへ一人の男が説得に来るところから物語は始まる。その男こそ知将として名高い『黒田官兵衛』。死を覚悟しての訪問であったが、村重の翻意叶わず官兵衛は幽閉されてしまうのであった。

作中では大きく4つの事件が発生する。人質の謎の死、大将首の謎、密室殺人、謎の銃弾…。信長軍が迫る中、城内の混乱を収めるためにも村重はこれらの謎を解決しなければならない。なかなか解決の糸口がつかめない中、官兵衛に助言を求めようとするのだが…。

本作はミステリー小説が好きな人向きである。正直、普段本を読まないような人には向いていない。なにせ舞台設定が戦国時代であり、且つ登場人物が多い。時代背景や状況説明も現代とは異なるため、(戦国時代の予備知識があればよいが、あまり無いようであれば)しっかりと読み込む必要がある。

もちろんそういった部分が問題無ければ、間違いなく面白い作品である。なので、骨太なミステリーを求める方、歴史小説が好きな方などにおすすめしたい一冊。

テスカトリポカ 佐藤究 角川書店

★クライム バイオレンス

第165回直木賞受賞、第34回山本周五郎賞W受賞、このミステリーがすごい2022年版国内編第2位。

透明な螺旋 東野圭吾 文藝春秋

★本格

ガリレオシリーズの10作目。房総沖で男性の遺体が見つかった。司法解剖の結果体内から銃弾が発見される。殺人事件と断定され、ほどなく行方不明者の中から遺体の身元が判明する。関係者をたどると恋人が失踪しており、その恋人の行方をたどっていく中で『湯川学』の名があがった。事件を捜査する草薙は横須賀の両親のもとに滞在する湯川を訪ねることになるのだが・・・。

湯川も草薙も物語の中で歳をとっており、二人を取り巻く環境も状況も変わってきている。事件を追っていく中で、今まで語られてこなかった湯川の過去の一部が明らかになり、シリーズを通しての物語の進展がみられるので、シリーズファンには必読となるであろう。

もちろん本作のメインとなる事件も、良く練られた構成をしており、最後まで飽きさせない展開はさすがとしか言いようがない。

最後に、本作のテーマを一言で表すならば『親子の愛』であろう。

蝶として死す 平家物語推理抄 羽生飛鳥                東京創元社(ミステリ・フロンティア)

★本格、歴史

時は平安時代末期。主人公『平頼盛』は平清盛の異母弟にして、平家きっての知恵者として知られていた。しかしそれが故、兄の清盛からは疎まれ、要職からは外されていた。家族の生活を守るためにも何としても、兄との仲を修復して朝廷に返り咲かなければならない。そんなときにおきた童子の惨殺事件。その童子は「平家を誹謗中傷する者たちを取り締まるため」清盛が都にはなった童子の一人だったのだ。頼盛はこの事件を解決することで、朝廷への復帰を目論むが・・・。

本書は5編の短編連作集。舞台は平安末期。歴史の謎に迫るという内容ではなく、平安時代を舞台にしたミステリーとなります。時代が現代ではなく、壮大なトリックがあるわけではないので、ぱっと見地味な印象です。しかし、5編とも良く練られた構成と、各編ごとの時代の移り変わり、ラストにつながる展開。そしてタイトル。一人の男の生きざまには感動すら覚えるほどです。

いや正直、本当に面白いです。

兇人邸の殺人 今村昌弘 東京創元社

★本格ミステリー、クローズドサークル

『屍人荘の殺人』『魔眼の匣の殺人』に続くシリーズ三作目。廃墟テーマパークに閉じ込められた葉村譲と剣崎比留子を待ち構えていたのは、無慈悲な首切り殺人鬼。

はたして葉村譲と剣崎比留子は生きて脱出することが出来るのか?

本作は単独でも完結しているが、シリーズ通しての謎である、謎だらけの組織『班目機関』の研究が絡んでいる。なので、一作目『屍人荘の殺人』、二作目『魔眼の匣の殺人』を読んでからの方が、より楽しめるようになっている。

今回も本格ミステリーの要素はふんだんに盛り込まれているが、舞台が廃墟テーマパークであったり、殺人鬼が出てくるなど、アクション性が少し強め。(一作目もその傾向があるが、今回はより強い印象)。また状況が状況なので、アクションホラーゲーム(バイオハザードやサイコブレイク)を想像していただけるとイメージが湧きやすいです。

原因において自由な物語 五十嵐律人 講談社

★社会問題、リーガル

学校でおこるいじめとそれと、そのいじめに関係がありそうな自殺と思われる死亡事故。

いじめという昔からある社会問題に、SNSや動画投稿サイトなど現代的なテーマを掛け合わせている。さらに物語の小道具として、『故意恋』と言われる、写真から導き出した顔面偏差値からマッチングするアプリが存在する。架空のアプリでありながら、実際にありそうなので、物語のリアリティーをこそないことが無い。

作者の五十嵐律人氏が弁護士なので、法律に関しての記述が多く且つ専門的である。それがよりミステリーに深みを与えている。

また、本作は主人公を小説家としているので、小説家としての自身の考えも反映されているのでは?と考えてしまうのは気のせいだろうか・・・。

ちなみに、本作の物語には関係ないのだが、作者の過去作の内容に少しだけ言及しているので、過去作を知っていると少しニヤってなります。

元彼の遺言状 新川帆立 宝島社

★リーガル

第19回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作。

遺産相続とそれに関係した事件がストーリーの中心となる。序盤から中盤かけて散りばめられた伏線を、終盤上手に回収しており、上手くまとめられた作品であるといえる。話のテンポも良く、次々と物語が展開していくので飽きずに読み進めることが出来る。

しかし、本作において何より特徴的なのは、その主人公であろう。本作の主人公である『剣持麗子』は、美人で成績優秀、運動もできるなんでも超人である。しかもメンタルも強い。そんな彼女が奔走するのが本作の見どころとなる。随時きつい性格に描かれていて、感情移入し難く感じるが中盤から終盤その根底にあるやさしさにも言及されており、憎めないキャラクターとなっている。そのため、本作は主人公の行動を追っているだけで、面白く読み進めることが出来るのである。

時空犯 潮谷験 講談社

★SF、タイムリープ

2018年6月1日を1000回近く繰り返す博士と、その繰り返しの謎を解明するため、博士に集められた8人の人々。半信半疑ながら説明を受けた翌日、8人は実際に繰り返しを体験する。そして博士が刺殺体となって発見される。

『ミステリー×SF』。本作を一言で表すとならばこの言葉がぴったりだろう。

タイムリープをはじめとした壮大なSF設定が本作の大きな特徴。もちろん殺人事件が起こっているので犯人当てが存在し、その展開はロジカルなものとなっている。

印象としては似ている作品として『涼宮ハルヒの憂鬱』が挙げられる。

カミサマはそういない 深緑野分 集英社

★奇想天外

全7編の短編集。ガチガチのミステリーというのではないが、ミステリー調の物語構成をしている作品群。舞台となるのは現代日本をはじめ、架空の世界など様々。消えた友人の話、殺人ピエロに追いかけられる話、スナイパーの謎、タイムリープなどなど。どの話も少し癖があり一筋縄ではいかないものばかり。

変な家 雨穴 飛鳥新社

★猟奇

一見何の変哲もない一軒家。しかし間取り図をよく見てみると、おかしな点があることに気づく。それは2階の中央に配置された窓のない子供部屋。そしてその子供部屋からしか入れないトイレ。さらには1階にある謎のスペース。この間取りはどういう意図があり、そしてこの家で何が行われていたのか?

間取り図が謎解きの中心にあるのだが、それが昔ながらの秘密の部屋的謎解き要素となり、冒険心をくすぐられる展開になっている。また物語の進行が基本的には会話で進むため、ストーリー進行が早く物語がサクサク進む。物語の後半は人物関係や理由づけなど、若干込み入った内容になり、かつ多少強引な設定にもなるのだが…。

話の展開が早く、ページ数も多くはないため、普段読書をしない人でも一気読みしやすくなっている。ミステリー・ホラー系のお話が好きな方にはおすすめできる一冊。

蒼海館の殺人 阿津川辰海 講談社タイガ

★本格

前作『紅蓮館の殺人』の続編。学校に来なくなってしまった名探偵『葛城』に会うため、僕こと『田所』はY村の青海館を訪れることになる。

本作は館を舞台とした本格ミステリーであり、館という舞台、とある事情により閉じ込められるというクローズドサークルで展開される物語である。本格ミステリーが好きな人にはもってこいの作品である。

紅蓮館の殺人 阿津川辰海 講談社タイガ

★本格

山中に隠棲した大物作家に会うため勉強合宿を抜け出した僕こと『田所』と名探偵『葛城』。2人の高校生は、落雷による山火事により、作家が住む館に避難することになる。そしてそこで起こる殺人事件。火の手が迫る中、犯人を突き止めることは出来るのか?そして館を脱出することは出来るのか?火の手が迫りクローズドサークルと化した館の中で、現在と過去が交錯する展開に、ページをめくる手が止まらなくなること必至。東大卒の若手作家が贈る極上の本格ミステリーをご堪能あれ。

推理大戦 似鳥鶏 講談社

本書を一言でいうと『名探偵たちによる推理ゲーム』。アメリカ、ウクライナ、日本、ブラジル・・・・。各国を代表する名探偵が繰り広げる推理合戦が今始まる!
魅力は各国を代表する名探偵たち。それぞれが主人公として1本の小説が誕生してもおかしくないくらい、キャラクターが立っている。AIを駆使する情報処理エキスパート、思考速度が通常の数十倍から百倍以上にも達する思考の達人、尋常ならざる五感の持ち主、人間ウソ発見器。物語の構成として、最初に各キャラクターの人物紹介がてら、それぞれのエピソードが紹介される。各キャラクターの能力はもちろん、それぞれのバックボーンなども語られている。そこが良くできていると感じる。それぞれの話を膨らませれば、それだけで1本の小説になってしまうのではないか?そう感じられるほど。(もちろん各エピソードが手短にまとめられているからこそ面白く読めるともいえるが)
中盤以降の推理合戦は可もなく、不可もなく。各名探偵のキャラクターが強いだけに、良くまとめられていはいるが、若干惜しい感じがする。

ミステリー・オーバードーズ 白井智之 光文社

★奇想天外、本格

5編の短編が収録された短編集。どの短編もかなり個性的である。まず設定が個性的すぎる。たとえるなら”世にも奇妙な物語の中でもかなり変な部類”くらいでしょうか。そして、どちらかというと『グロい』部類に入る。

しかしそれでいてミステリーとしては、とてもしっかりしている。いや、むしろかなり本格である。もしくはマニア向けと言ってもいいかもしれない。それが故に若干、読者を選んでしまうような気もするが・・・。

とにかく、面白く、奇抜で、本格的なミステリーを求めるならばぜひ!

雨と短銃 伊吹亜門 東京創元社(ミステリ・フロンティア)

★本格ミステリー

本作は前作『刀と傘 明治京洛推理帖』の前日譚にして、著者初となる長編時代本格推理。

時は幕末。主人公の鹿野師光は尾張藩の若き藩士。登場人物は坂本龍馬や西郷隆盛など幕末を彩る英傑を筆頭に、維新志士や新選組などミステリーでなくてもわくわくする人物ばかり。そんな中で起こる殺人事件。史実と創作を絶妙に織り交ぜながら展開するストーリーに、引き込まれること間違い無し。

ミステリーとして面白いのはもちろんですが、幕末の歴史の勉強の取っ掛かりとしても良いのではないでしょうか。もちろん脚色されているので、あくまでも取っ掛かりとしてですが。

非弁護人 月村了衛 徳間書店

★リーガルサスペンス

主人公は元特捜検事『宗光彬』。過去の冤罪により、表向き弁護士活動はできなくなったため、裏社会で法律を駆使してクライアントの利益を勝ち得る「非弁護人」だ。
行きつけの料理屋を営業しているパキスタン人の子供の少年から「いなくなったクラスメイトを捜して欲しい」という依頼を受けた。失踪した少女とその家族の行方を追ううちに、他にもおびただしい数の失踪者がいることを突き止める。果たして失踪者たちはどこに消えたのか?そして大量失踪の黒幕は誰なのか?
弁護士、検事などの法曹界、ヤクザ、海外犯罪グループなどの裏社会を巻き込んだ、著者渾身のリーガルサスペンスここに誕生。

ボーンヤードは語らない 市川優人 東京創元社

★本格ミステリー

『ジェリーフィッシュは凍らない』に連なるシリーズ第4弾。今回は主要キャラクターの過去を描いた4つの短編集。

マリアや漣の警察官になる前の学生時代のエピソードが描かれており、4篇とも完成度の高い短編ミステリーとなっている。その内容は、二人が警察官になるきっかけとなった事件や、二人が初めてコンピを組んで発生した事件などなど。

各キャラクターの魅力が伝わってくる。

ブレイクニュース 薬丸岳 集英社

★社会派

ユーチューブ、SNS、ネット上の誹謗中傷、など今起きている問題を巧みに取り入れた、ミステリーというよりは現代社会派小説。今を取り入れることが上手い著者らしい作品と言える。

主人公『野依美鈴』はユーチューブに開設した自身のニュースチャンネル『野依美鈴のブレイクニュース』を通して、社会問題を扱っている。扱っているテーマは多岐にわたり、児童虐待、8050問題、冤罪事件、パパ活、ヘイトスピーチ、ネット上の誹謗中傷など。その過激な内容と、場合によっては訴えられかねない取材方法などが話題となり、多くの視聴回数を稼ぐ人気チャンネルになっている。もちろん人気の裏には、同等のバッシングや身の危険も潜んでいるのだが・・・。

なぜ野依美鈴はそこまでしてニュースを流すのか?

invert 城塚翡翠倒叙集 相沢沙呼 講談社

★倒叙ミステリー

2019年に発売された『medium[メディウム]』(下記の5冠を獲得)の続編。

★第20回本格ミステリ大賞受賞
★このミステリーがすごい! 1位
★本格ミステリ・ベスト10 1位
★SRの会ミステリベスト10 1位
★2019年ベストブック

3つの短編(中編)『雲上の晴れ間』『泡沫の審判』『信用ならない目撃者』からなる短編集。今回は各編とも倒叙式となっており、最初に犯人とその犯行が描かれている。つまり読者は犯人が予めわかっている上で、翡翠がどうやって犯人の犯行を暴く(決定的な証拠を見つける)のか、という部分を楽しむことになる。(昔放送されていたTVドラマの古畑任三郎シリーズのような展開)

どの話の質の良いミステリーに仕上がっている。が、前作medeiumの話も出てきてしまうので、ぜひ前作を読んだ上で本作を読むことをお勧めする。(作品の衝撃度でいえば前作の方が衝撃的であるため、何も情報を入れない状態で前作を読んでいただきたい)

 

おすすめランキング

(2020年以前の作品)

1、葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午 文藝春秋

★どんでん返し、ハードボイルド

どんでん返し系ミステリーの最高峰と言っていい本作。
ハードボイルド調の内容にドキドキ、ハラハラと読み進めていくと最後にまさかの・・・
結末を知ってから読み返すと、いたるところに張られた伏線に驚愕。
まんまと騙されている自分に気が付くはず。
作者の構成力に脱帽です。
第57回日本推理作家協会賞、第4回本格ミステリ大賞受賞。

2、重力ピエロ 伊坂幸太郎 新潮社

★ヒューマン、人間ドラマ

なんといってもお父さんの最後のセリフがかっこいいんです!

これ以上話すとネタバレになるので、ここまでにしておきますが、最後まで読み進めてもらえば分かると思います。

主人公『泉水』と二つ下の弟『春』。平凡なサラリーマンの『泉水』に比べ『春』には才能があった。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面するな真実とは?

3、64(ロクヨン) 横山秀夫 文藝春秋

★重厚な警察ミステリー

本作の主人公『三上義信』は元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官。つまり、刑事のように事件捜査は直接行わない。『警察小説』でありながら、主人公が刑事でない。ゆえに捜査を行わない。という、独特な作品であり、作者の得意な構成でもあります。
元々横山秀夫の作品は、刑事以外の警察関係者を主人公にした作品が多く、それでいて完成度がメチャクチャ高いという作品を世に送り出してきました。

本作もそんな作品の一つになります。そして最高傑作。(現時点での)

話の内容は、現在と過去の事件(これが『ロクヨン』と呼ばれる、昭和64年に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件)が交差しながら進んでいきます。記者クラブ、刑事部、警務部、の争い中各陣営の思惑と利害が複雑に交差する展開は、続きが気になって、どんどん読み進めてしまいます。そして驚きの展開が・・・

2013年国内ミステリベストテン2冠、2016年日本人初の英国推理作家協会(CWA)のインターナショナル・ダガー賞候補作。

4、悪の教典 貴志祐介 文藝春秋

★ノワール、ピカレスク、サイコパス

本作の主人公である『蓮実聖司』は生徒から圧倒的人気を誇る教師である。しかし彼には裏の顔があった。そう、連続殺人鬼だったのである。他人の痛みに共感することが無いパーソナリティ『サイコパス』なのだ。

本作は、読者が主人公に共感しづらい部分がありつつも、それでもなお続きが気になり読み進めてしまうという、不思議な作品である。

 

5、魔眼の匣の殺人 今村昌弘 東京創元社

★本格、クローズドサークル

今作が2作目になります。前作『屍人荘の殺人』を読んでいなくても、今作は単独の話になりますので、特に問題ありません。ただ、前作を読んでいた方がより楽しめますので、可能でしたら前作を読んでから本作を読むことをお勧めします。

物語は主人公『葉村譲』が友人『剣崎比留子』と『魔眼の匣』と呼ばれる施設を訪れようとするところから始まります。
そして、たどり着いた魔眼の匣で巻き込まれる連続殺人。外界と唯一つながる橋が燃え落ちて発生するクローズドサークル。王道のミステリー要素を中心に、予言などオカルト的要素も盛り込んだ本作。

張られた伏線が1つではなく、それによって謎解きが複数あり、伏線好きの私にはたまらない展開となっておりました。

シリーズ通しての謎となりそうな『斑目機関』など、まだ解き明かされていない部分があるので、今後の展開が楽しみです。

屍人荘の殺人
★本格、クローズドサークル
魔眼の匣の殺人の前作。今村昌弘の1作目である。主人公『葉村譲』と『剣崎比留子』の出会いや、もう一人のキーパーソンの存在などシリーズ1作目にふさわしい作品。
ミステリーのジャンルとしては物語の舞台がクローズドサークルとなるため、本格ミステリーに位置づけられるが、クローズドになる理由にはなんとも驚きの理由が・・・。
映画化もされるなど話題性抜群!ぜひ一読を!

6、カラスの親指 道尾秀介 講談社

★どんでん返し、二度読み必至

詐欺師を生業とする『タケさん』と『テツさん』はそれぞれに事情を抱えた中年男性。とあることがきっかけでコンビで詐欺をする仲間となっていた。二人の共通点は、二人とも家族を失い、詐欺という犯罪に手を染めていること。とくに『タケさん』は過去にまだ、だいぶ縛られて生きている様なのだが・・・。

最後の30ページで明かされる事実は、「おみごと」としか言いようがないくらい、きれいに物語をひっくり返してくれます。そして改めて気づかされる巧妙に張られた伏線に拍手を送りたい。

7、満願 米澤穂信 新潮社

★短編集、警察、日常、心理

史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の傑作。山本周五郎賞受賞。

本作に収められている短編は「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」の6つ。表題作の「満願」は最後に収録されている。その話にも、名探偵が出てくるわけでもなく、手の込んだトリックがあるわけでもない。しかし、それが故に物語の展開が秀逸である。きちんと伏線が張られていながら、最後にしっかりと『驚き』を持ってくる。超ハイクオリティー短編ミステリー集。

8、GOTH 乙一 角川書店

★短編連作集、日常、心理

人間の残酷な面を覗きたがる悪趣味な若者たち―“GOTH”を描き第三回本格ミステリ大賞に輝いた、乙一の跳躍点というべき作品。

<あらすじ>
高校生森野夜が拾った一冊の手帳。そこには女性がさらわれ、山奥で切り刻まれていく過程が克明に記されていた。これは、最近騒がれている連続殺人犯の日記ではないのか。もしも本物だとすれば、最新の犠牲者はまだ警察に発見されぬまま、犯行現場に立ちすくんでいるはずだ。「彼女に会いにいかない?」と森野は「僕」を誘う…。

9、medium[メディウム] 相沢紗呼 講談社

★本格ミステリー、どんでん返し

下記の5冠を達成した2019年の傑作ミステリー
★第20回本格ミステリ大賞受賞
★このミステリーがすごい! 1位
★本格ミステリ・ベスト10 1位
★SRの会ミステリベスト10 1位
★2019年ベストブック

推理小説として高い完成度を誇りながら、キャラクター小説としてもハイクオリティ。かつラストのどんでん返しは驚愕を禁じ得ない。「なられた!」と思いたいならぜひ読むべし!

<あらすじ>                                         推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かわなくてはならない。一方、巷では姿なき連続殺人鬼が人々を脅かしていた。一切の証拠を残さない殺人鬼を追い詰めることができるとすれば、それは翡翠の力のみ。だが、殺人鬼の魔手は密かに彼女へと迫っていた―。

10、機龍警察 月村了衛

★警察、SF

一言で言うと『近未来警察小説』。パトレイバーの内容に、よりリアリティを持たせ、刑事事件を中心に、よりハードな内容にしたような印象。本筋の事件捜査はもちろん、官僚組織としての警察であったり、裏社会やテロリスト、政治や外交などが複雑に絡み合ったプロットが秀逸。

また、登場人物それぞれがきちんと描かれており、各人何かしらの考え(想い)を抱えているように感じる。

警察小説が好き、SF設定が好き、という方におすすめ!

機龍警察[完全版]

長編シリーズ1作目。機龍警察に加筆修正を加え[完全版]としたのが本作。これから大きく物語展開していく作品の記念すべき1作目となる。1作目なので、主要キャラクターの紹介や時代背景、状況説明などの説明が多めになっている。また、キャラクターの背景や人物関係も、全て表現しきれているわけでは無いので、これからを予感させる期待値のとても高い作品となる。

機龍警察 自爆条項[完全版]

長編シリーズ2作目。今回の敵は世界的なテロリスト。主要パイロットのうちの一人『ライザ・ラードナー』が話の中心となる。ライザの過去が明らかになると共に、抱えている業や葛藤等が掘り下げられている。また、特捜部の置かれている状況や、新たなる敵の存在等、物語の更なる展開が待ち受けている。

機龍警察 暗黒市場

長編シリーズ3作目。今回はロシアマフィアに潜入。今回は主要パイロットの一人『ユーリ・オズノフ』が話の中心となる。モスクワ警察時代の因縁とともに、ブラックマーケットや闇で暗躍する非合法組織の数々など、日本が直面している危機的状況に立ち向かうことになる。

信じていた人に裏切られる絶望。本当の敵は誰で味方はだれなのか?信じるに値する人はいるのか?二転三転するする状況に手に汗にぎること間違いなし!

機龍警察 未亡旅団

長編シリーズ4作目。チェチェン紛争により家族を失った、女性だけのテロ組織『黒い未亡人』が日本に潜入した。未成年による自爆テロも辞さない戦法に翻弄される特捜部。爆弾テロが手段の中心となるため、被害者は一般人に及ぶ可能性が非常に高く、また範囲も広範囲となる可能性が高い。

今なお世界で起こる紛争と、それによって生み出される憎しみ。やがてその憎しみは『復讐』とういうものに形を変えて、新しい憎しみを生み出してゆく。そして復讐はテロリストとテロ行為を世界中にバラまくことになる。そして世界中で起こるテロの連鎖が日本にも・・・。特捜部は日本で計画されているテロを食い止めることが出来るのだろうか。

機龍警察 火宅

シリーズ初の短編集。長編ではあまりスポットの当たることのない、捜査員や副官たちの物語が描かれている。シリーズファンはもちろん、機龍警察シリーズをより深く楽しみたい方は必読。

機龍警察 狼眼殺手

長編シリーズ5作目。日中合同プロジェクトに絡む一大疑獄が発覚。その中で起こる関係者の暗殺事件。プロの仕業であることは一目瞭然。では一体誰が殺し屋を雇ったのか?そして暗殺された人たちはなぜ殺されたのか?(何に関係し、または何を知っていたのか?)日本側、中国側、そして裏社会などが複雑に入り組んだ利害関係の中、己の利益のため暗躍する。その先にあるものとは・・・。

今回は(というか今回も)、複雑に入り組んだ組織関係、人間関係の中、利害関係や権力が複雑に絡み合いながら物語が進行します。油断していると物語の展開についていけなくなりそうですが、政治や権力などの骨太なストーリーが好きな方にはもってこいの展開になります。

機龍警察 白骨街道

長編シリーズ6作目。今度の舞台は紛争地ミャンマー。現地で逮捕された容疑者を引き取るため、龍機兵のパイロット3人が指名される。場所は治安が著しく不安定な紛争地ミャンマー。半ば死にに行けと言われている状況だが、特捜部長『沖津』は承諾せざるを得なかった。

ミャンマーで3人を待ち受けていたのは、絶望的な環境と罠の数々。はたして3人は生還することが出来るのか?

11、アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂幸太郎

★どんでん返し

第25回吉川英治文学新人賞受賞作。

現在と過去を交互に描きながら、一見関係なさそうな事柄が終盤に向かって集約されていく様はさすがの一言。

<あらすじ>
引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは黒猫、次が悪魔めいた長身の美青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ち掛けてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑。僕は訪問販売の口車に乗せられ、危うく数十万円の教材を買いそうになった実績を持っているが、書店強盗は訪問販売とは訳が違う。しかし決行の夜、あろうことか僕はモデルガンを持って、書店の裏口に立ってしまったのだ!

12、ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎

★逃亡劇、陰謀

「それ」が「そこ」につながるのか‼というプロットは見事。ハリソンフォードの主演映画「逃亡者」に似た雰囲気の内容だが、見えない敵は映画より強大な組織でありそう。日本では堺雅人主演で映画化もされており、作品の人気の程がうかがえる。

とりあえず読んでほしい一作。そして最後の一言の意味を知り、その痛快さに笑ってほしい。

<あらすじ>
衆人環視の中、実行された首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。

13、イニシエーション・ラブ 乾くるみ

★どんでん返し

最後の一行で世界が一変する。

伏線はいたるところに張られている。キャラクターの名前、状況、出てくる番組名などなど。章の付け方すら伏線になっている。改めて読んでみると確かに違和感はある。「なぜ?」と。しかし「小説だしそういうものか」、と流してしまうものがほとんど。それゆえにオチが分かった時に衝撃となる。

ちなみに男女の恋愛話が中心で、殺人事件などは起こらない。ハードな本格ミステリーがご希望なら本作は候補に入らないかもしれないが、衝撃度はかなり高めなので、もし未読であるならば是非!

14、ジェノサイド

★SF

ミステリーでありながら、SFの要素もふんだんに盛り込んだ本作。日本で薬学を専攻する大学院生とイラクで戦うアメリカ人傭兵が物語の中心となり話は進んでいく。日本とイラク。2つの場所が互いに交錯しながら、やがて驚愕の真実が明らかになる…。

15、王様とサーカス 米澤穂信

★社会派、ジャーナリズム

フリーのジャーナリストとなった『大刀洗万智』は、取材でネパールを訪れていた。そこで偶然にも遭遇した国王銃撃事件とその渦中で発生した一件の殺人事件。二つの出来事は関係があるのか?それとも偶然にも同時期に発生しただけの別の事件なのか?緊迫した状況の中、ジャーナリストとして何をどう記事にすればよいのか。そもそもジャーナリストととして何をすればよいのか。万智が下した決断はいったい・・・。

真実の10メートル手前

太刀洗万智が主人公の6篇の短編集。

さよなら妖精

 

16、龍神の雨 道尾秀介

★どんでん返し

大藪春彦賞受賞作。

後半に展開されるどんでん返しは圧巻。序盤から前半にかけて散りばめられた伏線を後半回収し、物語が収束する様は、やられた感満載です。

道尾作品らしく、ある種の危うさを孕んだ物語となっている。主人公の置かれている状況には、不幸さが付きまとい、その行動、その判断は悪い方へと進んでいく。

<あらすじ>
二組のきょうだい(兄弟/兄妹)の物語。母親を海難事故で亡くし、その後父親をがんで亡くした兄と弟。父親の再婚相手である継母には、実母への愛情から心を開くことが出来ず、特に兄の方は意図的に反抗ばかりしていた。もう一方の兄妹は、母親が再婚してすぐ事故で死んでしまう。義父とは打ち解ける時間などなく。やがてその共同生活は義父の暴力とともに崩壊し、やがて義父の邪な欲望が妹に向き始める。そして兄には殺意が芽生える。とある夜、雨が降りしきる中、二組の兄弟の歯車が回り始め、事件がおこる。

17、シャドウ 道尾秀介 創元推理文庫

★どんでん返し、心理学

第七回本格ミステリ大賞受賞作。

シャドウや記憶、精神病など心の病気をベースに組み立てられているミステリー。何が正しくて、何が嘘なのか?誰が正常で誰が異常なのか?二転三転する中で徐々に明らかになっていく真相。そして明かされる驚愕の事実とは…。

<あらすじ>
主人公『凰介』は小学生5年生。母が病死し、父の『洋一郎』と二人だけの生活が始まって数日後、幼馴染みの『亜紀』の母親が自殺を遂げる。そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎は過去に患っていた病気が再発し…。そんな中、凰介にはとある記憶がフラッシュバックする。重なり合っている裸の男女を檻の中から見ているというものだが、人物が誰で、なぜそんな記憶があるのかは分からなかった。はたしてその記憶は凰介の記憶なのか?それともただの夢なのか?

18、さよならの手口 若竹七海

★ハードボイルド、探偵(調査員)

運の悪い女『葉村晶』。職業「フリーの調査員」。
日本の女版フロスト警部シリーズのような印象。

しっかりハードボイルドしているのだが、主人公が女性なので変にキザにならずに読みやすく出来ている。(かっこいい?男のダンディズムとは一味違う。)

起きる事件は結構ハードなものが多いので、やはりその点もハードボイルド。あと『葉村晶』運悪すぎ。

依頼人は死んだ 若竹七海 文春文庫

 

悪いうさぎ 若竹七海 文春文庫

少女の失踪事件をきっかけに葉村晶がかかわった事件は

静かな炎天 若竹七海 文春文庫

 

錆びた滑車 若竹七海 文春文庫

 

不穏な眠り 若竹七海 文春文庫

 

プレゼント 若竹七海 中央公論社

 

19、アンダードッグス 長浦京 角川書店

★ハードボイルド

時代は1997年。中国に返還される直前の香港が舞台。
主人公『古葉慶太』は元官僚の証券マン。顧客の大富豪・マッシモからある計画を託される。それは、中国返還直前の香港から密かに運び出される国家機密を強奪せよというものだった。かつて政争に巻き込まれ失脚した古葉は、逆襲の機会とばかりに香港へ飛ぶ。だが、彼を待っていたのは、国籍もバラバラな“負け犬”仲間たちと、計画を狙う米露英中、各国情報機関だった――。裏切るか、見破るか。策謀の渦巻く香港を舞台に“負け犬”たちの戦いが今始まる!

20、戦場のコックたち 深緑野分 創元推理文庫

★戦争、本格

生き残ったら、明日は何が食べたい?
1944年、若き合衆国コック兵が遭遇する、戦場の“日常の謎”
『ベルリンは晴れているか』の著者の初長編、直木賞・本屋大賞候補作

1944年6月、ノルマンディー降下作戦が僕らの初陣だった。特技兵(コック)でも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ。新兵ティムは、冷静沈着なリーダーのエドら同年代の兵士たちとともに過酷なヨーロッパ戦線を戦い抜く中、たびたび戦場や基地で奇妙な事件に遭遇する。忽然と消え失せた600箱の粉末卵の謎、オランダの民家で起きた夫婦怪死事件、塹壕戦の最中に聞こえる謎の怪音――常に死と隣あわせの状況で、若き兵士たちは気晴らしのため謎解きに興じるが。戦場の「日常の謎」を連作形式で描き、読書人の絶賛を浴びた著者初の長編ミステリ。

 

21、昨日がなければ明日もない 宮部みゆき 文藝春秋

杉村三郎シリーズ。
3篇の中編からなる中編集。

「絶対零度」……杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院ししてしまい、1ヵ月以上も面会ができまいままで、メールも繋がらないのだという。杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるが……。

「華燭」……杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する……。

「昨日がなければ明日もない」……事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。「子供の命がかかっている」問題だという。美姫は16歳で最初の子(女の子)を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な女性であった……。

誰か

杉村三郎シリーズの第一作。

 

名もなき毒

 

ペテロの葬列

 

希望荘

 

22、新参者 東野圭吾

 

祈りの幕が下りるとき

 

赤い指

 

23、孤狼の血 柚月裕子

★バイオレンス

広島の呉を舞台にした警官とヤクザの争いを描いた本作。

凶犬の眼

 

暴虎の牙

 

24、たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説 辻真先

★本格

【ミステリランキング3冠!】
*第1位『このミステリーがすごい! 2021年版』国内編
*第1位〈週刊文春〉2020ミステリーベスト10 国内部門
*第1位〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 国内篇

昭和24年、ミステリ作家を目指しているカツ丼こと風早勝利は、名古屋市内の新制高校3年生になった。旧制中学卒業後の、たった一年だけの男女共学の高校生活。そんな中、顧問の勧めで勝利たち推理小説研究会は、映画研究会と合同で一泊旅行を計画する。顧問と男女生徒5名で湯谷温泉へ、修学旅行代わりの小旅行だった──。そこで巻き込まれた密室殺人事件。さらに夏休み最終日の夜、キティ台風が襲来する中で起きた廃墟での首切り殺人事件! 二つの不可解な事件に遭遇した勝利たちは果たして……。

 

深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説

『たかが殺人じゃないか』の前作。『たかが殺人じゃないか』にも登場した『那珂一兵』が主人公として東京・名古屋を舞台に活躍?する話。殺人事件もありミステリーとなっているが、登場人物や当時の世相の描写が多いので、どちらかというと本を読み慣れている人向け。

25、ユリゴコロ 沼田まほかる 双葉文庫

★イヤミス

恋人の失踪、父の末期がん、そして母の交通事故死。立て続けに起こった不幸と、実家で偶然発見してしまった、書き手不明の謎の手記。そこには、とある人物の半生と殺人の記憶が記されていた。そして主人公に蘇ってくる不可解な記憶。

手記の書き手は母なのか?

現実と手記の内容が交互に展開される構成。派手なアクションがあるわけではなく、淡々と物語は進んでいくのだが、一度読み始めると先が気になって止まらなくなる。それくらいこの物語には吸引力がある。

26、警官の血

★警察ミステリー

親子3代にわたる警察官の物語。そこには戦後から平成を駆け抜けた3人の警察官の生き様が描かれている。苦悩や葛藤を抱えながらも職務を全うする重厚な物語は圧巻。

警官の条件

★警察ミステリー

警官の血の続編。

27、隻眼の少女

★本格、どんでん返し

28、シューマンの指  講談社文庫

★どんでん返し

29、ラバーソウル 井上夢人 講談社文庫

★どんでん返し

30、ジョーカーゲーム

★スパイ、騙しあい

ダブルジョーカー

★スパイ、騙しあい

パラダイス・ロスト

★スパイ、騙しあい

ラスト・ワルツ

★スパイ、騙しあい

31、マーダーズ 長浦京

★バイオレンス

本書を一言で表すならば、ノンストップ・バイオレンス・ミステリー。
複数の事件が交錯しながら1本の線でつながっていく流れに、読むことを止めるタイミングがつかめず、気づいたら読み終わっている。

 

32、制服捜査 佐々木譲

★警察、短編連作集

北海道の田舎町の駐在所に単身赴任することになった警察官の警察ミステリー。短編連作集。排他的な閉塞感のある田舎町が舞台。そこで起こる不可解な事件。そして過去に起こった誘拐事件に極めて似た誘拐事件が発生する。

 

 

33、告白 湊かなえ

★イヤミス

 

34、隠蔽捜査 今野敏

★警察

35、沈黙のパレード 東野圭吾

★本格

名探偵ガリレオシリーズ第9作目。長編。

名探偵ガリレオ
ガリレオシリーズの記念すべき1作目。短編集。
警視庁捜査一課の草薙俊平はある難事件を担当していた。公園にたむろしていた少年が突然発火したという事件だ。解決の糸口がつかめない草薙は、一人の友人を訪ねる。帝都大学理工学部物理学科第十三研究室の助教授『湯川学』。草薙とは大学のバトミントン部でチームメイトであり、少し変わり者の天才物理学者である。
刑事の草薙と、探偵役としての湯川。2人のコンビが難事件に挑む人気シリーズの1作目。犯行のトリックが科学的(物理)になっているのが特徴。また、湯川のキャラクターも特徴的。ドラマでは福山雅治が湯川役を務めておりハマり役となっている。
名探偵ガリレオでは、『燃えるーもえるー』『転写るーうつるー』『壊死るーくさるー』『爆ぜるーはぜるー』『離脱るーぬけるー』の5編が収録されている。(冒頭の発火事件は『燃える』より)

予知夢
ガリレオシリーズ2作目。短編集
深夜、16歳の少女の部屋に男が侵入し、気がついた母親が猟銃を発砲した。とりおさえられた男は、17年前に少女と結ばれる夢を見たと主張。その証拠は、男が小学四年生の時に書いた作文。果たして偶然か、妄想か…。(夢想るーゆめみるー)
他に『霊視るーみえるー』『騒霊ぐーさわぐー』『絞殺るーしめるー』『予知るーしるー』を合わせた計5編。
常識ではありえない事件を、天才物理学者・湯川が解明する、人気連作ミステリー第二弾。
今回はダウジングやポルターガイストなどオカルト的な要素・トリックがテーマとなっている。一見ありえなさそうな事例も、科学的・論理的に考察・推理することで、意外な真実が見えてくる。

容疑者Xの献身
ガリレオシリーズ3作目。長編。
石神は高校で数学を教える教師である。湯川と大学の同期であり、数学を専攻していた。湯川をして『天才』と言わしめる才能の持ち主であったが、現在は高校の教師をしていた。
石神はアパートで隣の部屋に住む母娘の母と娘の母親の方、靖子に恋心を抱いていた。お互いに何気ない日常を送っていたが、とある闖入者により、それぞれの人生が交錯することになる。最悪の形で。
そしてその交錯は、石神と湯川の邂逅を生む。物理学と数学の天才が事件を通し対峙した先に見える真実とは…。

ガリレオの苦悩
ガリレオシリーズ4作目。短編集。
“悪魔の手”と名のる人物から、警視庁に送りつけられた怪文書。そこには、連続殺人の犯行予告と、帝都大学准教授・湯川学を名指して挑発する文面が記されていた。湯川を標的とする犯人の狙いは何か?常識を超えた恐るべき殺人方法とは?
犯罪者と天才物理学者の対決を圧倒的スケールで描く、大人気「ガリレオ」シリーズ第四弾。
『落下るーおちるー』『操縦るーあやつるー』『密室るーとじるー』『指標すーしめすー』『攪乱すーみだすー』の5編を収録。
本作より登場する女性警察官の「内海薫」が物語にアクセントを与えている。女性ならではの視点から事件を考察することで、男性では見落としがちな証拠や真相を湯川とともに見つけていきます。今までの草薙との相棒ものも良かったのですが、内海の登場により物語に深みが出てきた作品です。

聖女の救済
ガリレオシリーズ5作目。長編。
ガリレオが迎えた新たな敵、それは女。
資産家の男が自宅で毒殺された。毒物混入方法は不明、男から一方的に離婚を切り出されていた妻には鉄壁のアリバイがあった。難航する捜査のさなか、草薙刑事が美貌の妻に魅かれていることを察した内海刑事は、独断でガリレオこと湯川学に協力を依頼するが…。
驚愕のトリックで世界を揺るがせた、東野ミステリー屈指の傑作。

真夏の方程式
ガリレオシリーズ6作目。長編。
夏休みを玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・恭平。一方、仕事で訪れた湯川も、その宿に宿泊することになった。翌朝、もう1人の宿泊客が死体で見つかった。その客は元刑事で、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―。

虚像の道化師
ガリレオシリーズ7作目。短編集。
ビル5階にある新興宗教の道場から、信者の男が転落死した。その場にいた者たちは、男が何かから逃れるように勝手に窓から飛び降りたと証言し、教祖は相手に指一本触れないものの、自分が強い念を送って男を落としてしまったと自首してきた。教祖の“念”は本物なのか? 湯川は教団に赴きからくりを見破る(『幻惑すーまどわすー』)。
他に『心聴るーきこえる』『偽装うーよそおうー』『演技るーえんじるー』の計4編を収録。

禁断の魔術
ガリレオシリーズ8作目。短編集。
「透視す」「曲球る」「念波る」「猛射つ」の4編収録。

36、インシテミル 米澤穂信

★閉鎖空間

高額な報酬に目がくらみ、集まった参加者たち。待ち受けていたのは、閉ざされた空間で行われる恐怖のゲームであった。

37、笑う警官 佐々木譲

★警察

38、銀輪の覇者 斎藤純

★スポーツ(自転車)

39、犯人に告ぐ 雫井修介

★警察

40、第三の時効 横山秀夫

★警察

41、終戦のローレライ 福井晴敏

★戦争、ミリタリー

42、陽気なギャングが地球を回す 伊坂幸太郎

★クライム

序盤にちりばめられた伏線を、終盤で見事に回収するプロットは見事。

陽気なギャングの日常と襲撃

★クライム

『陽気なギャングが地球を回す』の続編。

陽気なギャングは3つ数えろ

 

43、13階段 高野和明

 

44、オルファクトグラム 井上夢人

 

45、白夜行 東野圭吾

 

46、亡国のイージス 福井晴敏

 

47、殺戮に至る病 我孫子武丸 講談社文庫

 

48、ホワイトアウト 真保裕一 新潮文庫

 

49、マークスの山 高村薫 講談社文庫

 

50、名探偵の掟 東野圭吾 講談社文庫

 

51、黒い家 貴志祐介 角川ホラー文庫

 

52、刀と傘 明治京洛推理帖 伊吹亜門 東京創元社(ミステリ・フロンティア)

★本格、歴史

時は幕末の動乱期。主人公『鹿野師光(かのもろみつ)』は尾張藩の若き藩士。佐幕派と討幕派が血で血を洗う争いを繰り広げる、混沌とした京都を舞台に起こる5つの殺人事件。

本作は史実をベースにしながら、創作を織り交ぜたミステリー。歴史ミステリーという訳ではなく、あくまでも幕末の京都が舞台というだけで、おこる事件は密室殺人などのミステリアスな事件。

53、透明人間は密室に潜む 阿津川辰海

★本格

4編からなる短編集。表題作は1話目に収録されている。透明人間になってしまう病気というものが存在する設定が独特。とんでも設定と言えばそれまでだが、当然物語にしっかり活かされており、独特の世界観を構成している。

印象としては世にも奇妙な物語のような雰囲気。

54、ノースライト 横山秀夫

 

55、テロリストのパラソル 藤原伊織

★ハードボイルド

56、チームバチスタの栄光 海堂尊

★医療

57、ゴシックス 桜庭一樹

★本格

58、厭魅の如き憑くもの 三津田信三 原書房

★本格

凶鳥の如き忌むもの(長編)

★本格

首無の如き祟るもの(長編)

★本格

山魔の如き嗤うもの(長編)

★本格

密室の如き籠るもの(短編集)

【収録作品】首切の如き裂くもの / 迷家の如き動くもの / 隙魔の如き覗くもの / 密室の如き篭るもの

水魑の如き沈むもの(長編)

 

生霊の如き重るもの(短編集)

【収録作品】死霊の如き歩くもの / 天魔の如き跳ぶもの / 屍蝋の如き滴るもの / 生霊の如き重るもの / 顔無の如き攫うもの

幽女の如き怨むもの(長編)

 

碆霊の如き祀るもの(長編)

 

魔偶の如き齎すもの(短編集)

【収録作品】妖服の如き切るもの / 巫死の如き甦るもの / 獣家の如き吸うもの / 魔偶の如き齎すもの

 

 

59、鬼の跫音 道尾秀介

 

60、儚い羊たちの祝宴 米澤穂信

 

61、ハサミ男

★本格、どんでん返し

62、ZOO  乙一

短編集。乙一ならではの設定は秀逸。

 

63、平井骸惚此中ニ有リ

★本格

64、あしたの君へ 柚月裕子

★ヒューマン

65、慈雨 柚月裕子

★警察

主人公『神野智則』は退官した警察官である。1つの後悔を抱え、妻『』とお遍路に

16年前におきた○○ちゃん誘拐殺人事件である。

そしてまた新たな誘拐殺人事件が発生した。

16年前の誘拐殺人事件と今回起こった事件に関連はあるのか?

本作は『過去の事件』と『今の事件』、『お遍路中の主人公』と『捜査現場』という2つの時間、2つの場所が舞台となります。
過去の事件やお遍路中の主人公を通して、主人公のこれまでの経歴や人柄を知ることが出来、また今の事件を通して現状置かれている状況や苦悩などを知ることが出来ます。

66、占星術殺人事件 島田荘司 講談社文庫

★本格

67、脳男  講談社文庫

★サイコサスペンス

68、教場  小学館文庫

★警察

69、死神の精度 伊坂幸太郎 文春文庫

 

70、十角館の殺人 綾辻行人 講談社文庫

★本格

新本格ミステリーを代表する作品にして、『館』シリーズの記念すべき第1作目。その鮮やかなどんでん返しは、思わず感嘆の声を発することでしょう。

また、登場人物の名前(ニックネーム)がいかにもミステリーマニアな感じがして、にやりとさせてくれます。

71、半落ち 横山秀夫 講談社文庫

★警察

72、犬と少年 馳星周 文藝春秋

★短編連作集

6編の短編が紡ぎだす短編連作集。『男と犬』『泥棒と犬』『夫婦と犬』『娼婦と犬』『老人と犬』『少年と犬』の6編。犬の名前は「多聞」。とても賢く、各編で登場するそれぞれに事情を抱えた人達に安らぎや希望を与える存在として描かれている。一気読みは必至。読後犬が飼いたくなります。

第163回直木賞 受賞作

73、土獏の花 月村了衛 幻冬舎文庫

 

74、罪の声 塩田武士 講談社文庫

 

75、私が殺した少女 原寮

★ハードボイルド

さらば長き眠り
★ハードボイルド

そして夜は甦る

それまでの明日

76、ジェリーフィッシュは凍らない 市川憂人 東京創元社

★本格

ブルーローズは眠らない 市川憂人 東京創元社

 

グラスバードは還らない 市川憂人 東京創元社

 

77、アリス殺し 小林泰三 創元推理文庫

 

クララ殺し 小林泰三

 

ドロシィ殺し 小林泰三

 

ティンカーベル殺し 小林泰三

 

78、検察側の罪人 雫井修介

 

79、祈りと叫び

 

80、地の底のヤマ 西村健 講談社文庫

 

81、折れた竜骨 米澤穂信 創元推理文庫

 

82、サクリファイス 近藤史恵 新潮文庫

 

83、Iの悲劇 米澤穂信

地方活性化の
主人公の作り話かもしれませんが、難しさとリアリティーを感じることが出来ると思います。
殺人事件などは起きませんが、確かな謎があり

人が死なないとか、驚天動地のトリックがあるわけでは無いので、人によっては物足りなさを感じるかもしれませんが、ラストで明かされる登場人物の素性と目的を知った時の驚きはまさしくミステリーです。

84、ホワイトラビット 伊坂幸太郎 新潮文庫

人質立てこもり事件

プロットが少し複雑

会話がおもしろい

登場人物が面白い。

85、聞かせていただき光栄です 皆川博子 ハヤカワ文庫

 

86、火のないところに煙は 芦沢央 新潮社

オカルト要素を題材にしたミステリー。

87、アナザー 綾辻行人 角川文庫

 

88、リボルバー・リリー 長浦京 講談社文庫

★バイオレンス

89、硝子のハンマー 貴志祐介 角川文庫

★本格

90、騙す衆生 月村了衛 新潮社

豊田事件をモチーフにした本作。

91、騙し絵の牙 塩田武士 KADOKAWA

 

92、盤上の向日葵 柚月裕子

★警察

93、検事の本懐 柚月裕子

★法廷

最後の証人 柚月裕子

 

検事の死命 柚月裕子

 

検事の信義 柚月裕子

 

94、殺人鬼がもう一人 若竹七海

短編連作集

95、バック・ステージ 芦沢央

 

96、かがみの孤城 辻村深月 ポプラ文庫

本作品では殺人事件はおきません。密室も名探偵も出てきません。
それでもしっかりとミステリーとして成立しています。

とはいえ、どちらかというと読者層としては少年少女向けという印象です。もちろん大人が読んでも面白いのですが、思春期の多感な時期を過ぎてしまっていると、若干理解しづらい部分があるというのも事実です。

【あらすじ】
安西こころは「中学校」に通う中学1年生。いや、通っていたといった方が正しい。
いじめをきっかけに学校に行けなくなってしまう。

そんなある日、部屋の鏡が光りその光のかなへと吸い込まれてしまう。そこには、おおかみのお面を付けた少女がたいた。そして、こころの他に6人。つまりこころをれて7人の中学生が集められたのだ。

97、W県警の悲劇 葉真中顕 徳間書店

★警察

W県警という架空の県警を舞台にした警察ミステリー。

 

98、僕の神さま 芦沢央 角川書店

全4話の短編連作ミステリー。小学生の僕の同級生の水谷くんはみんなから「神さま」と呼ばれている。学校で起きた問題をその推理力で解決してきたからだ。

99、許されようとは思いません 芦沢央

 

100、獏の檻 道尾秀介 新潮社

 

 

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